阿部サダヲにしか演じられない役ばかり 『あんぱん』の“妖精”から『しあわせな結婚』へ

NHK連続テレビ小説『あんぱん』の第80話、ヤムおんちゃんこと屋村草吉(阿部サダヲ)が御免与町にふらりと現れた。6年前に朝田家を出ていったときと変わらない様子で、「よっ、じいさんいるかい?」と釜次(吉田鋼太郎)を探す草吉。皮肉にもそれは、のぶ(今田美桜)の祖父・釜次(吉田鋼太郎)の葬儀が営まれている最中のことだった。
草吉はそもそも、どこからともなく御免与町にやってきた風来坊。憎まれ口をききながらも、子どもの頃からのぶや嵩(北村匠海)の成長を優しく見守る謎多き男だったが、自分のこと、とくに過去について語らない草吉が唯一戦争体験を語った相手は釜次だった。

戦時中、朝田家が陸軍からの依頼で乾パンを作らなければならない状況に追い込まれたことがあった。草吉は、頑なに乾パン作りを拒んだ。すると、愛国の鑑として注目されるのぶが勤務する学校やら、国防婦人会やらが口を出してくる騒ぎとなり、そうでなくても軍からの依頼を断ることなどできない。
そんな状況でも乾パンを作ることを躊躇するほどの理由、過去に何があったのか。釜次でなくても聞かずにはいられなかっただろう。草吉が乾パンを作りたくないという理由、それは彼が銀座のパン屋で修業をしていたときまで遡る。修業しているうちにパン作りを極めたいと、草吉はカナダへ渡るため密航船に乗り込んだ。その後、イギリス軍の日本人義勇兵として地獄を味わうような悲惨な目に遭ったこと。乾パンで飢えをしのぎ、倒れた仲間の乾パンも食べた話を釜次だけに語り、朝田家の人たちの前から姿を消したのだった。
草吉を演じる阿部サダヲが本作に出演するに当たり、制作統括の倉崎憲の熱望があったという。阿部サダヲが過去、朝ドラに出演したのは『かりん』(1993年度後期)、『こころ』(2003年度前期)なので、3作目にして、意外なことに22年ぶり。NHK大河ドラマでは『おんな城主 直虎』(2017年)の徳川家康役、『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年)の田畑政治役の印象が強く残っていて、『おんな城主 直虎』で家康を演じたのが8年も前になることにも改めて驚く。
阿部サダヲ、これまでの徳川家康像を覆すインパクト 『おんな城主 直虎』最終回に寄せて
12月17日の放送でNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』が最終回を迎えた。遠江国井伊谷の領主として乱世を生きた女性・井伊直虎を柴…コメディからシリアスまで自由自在にこなす演技力があり、「一緒に仕事がしたい」「阿部サダヲにこんな役を演じてもらいたい」と思わせる個性、人徳まで持ち合わせているからこそ、こんなにも話題の作品に途切れることなく出演し続けることができるのだろう。
のぶや嵩たちからヤムおんちゃんと呼ばれ、親しまれる草吉。7月19日放送の『土スタ』(NHK総合)に朝田家の三女・メイコ役の原菜乃華がゲスト出演し、本作のそれぞれのキャラクターについて語ったのだが、草吉のことを「ぶっきらぼうな妖精」と言っていた。「言葉遣いが荒かったり、若干ちくっとするようなことを言われたりもするんですけど、ユーモアのある返しだとか、人が落ち込んでいるところにすっと美味しいあんぱんを焼いてくれるところとか。あと、ふらりといなくなっちゃうところも妖精っぽいなと」と、草吉の妖精っぽさを指摘していた。






















