『海がきこえる』共感できないヒロイン像がもたらす“新鮮さ” 戻れない青春に思いを馳せて

1993年に公開されたスタジオジブリによる長編アニメ-ション作品『海がきこえる』。7月4日より3週間限定でリバイバル上映されている本作は、レトロな雰囲気を醸し出しており、青春の甘酸っぱさと苦さを味わえる名作だ。作品全体の淡い色合いには、遠い日をぼんやりと思い出すような懐かしさがある。また、主人公・杜崎拓や、拓の親友・松野豊が話す土佐弁は、馴染みがなくとも親しみやすい。大学生になった拓が同窓会に向かう途中の回想によって、高校時代の青春を描くという構成も、本作のノスタルジーに拍車をかけている。

映画の冒頭で流れる劇伴のタイトルは、「ファーストインプレッション」。“第一印象”という意味を持ったこの楽曲は、転校生・武藤里伽子がテニスをしているのを拓が眺めるシーンでも流れるなど、劇中でたびたび使用されている。やさしく涼しげなピアノの音色から、いかにもよく思える里伽子の第一印象。しかし、拓が里伽子と関わるうちに、彼女の自分勝手な言動が目立ち、ポジティブな第一印象とは徐々にかけ離れていく。
鮮烈なのは、修学旅行先のハワイで里伽子が拓に言い放った「杜崎くん、お金貸してくれない?」という一言だ。念のために言うと、2人がまともに話すのはこのときが初めて。それにもかかわらず、里伽子はトラブルの代表格であるお金の貸し借りを持ちかける。さらに、修学旅行のルールを守っている杜崎を「杜崎くんってそんな優等生だったの。聞いた話と全然違うわ。がっかり」と言い、杜崎の話す土佐弁を「時代劇みたいね」とバカにして笑う。
里伽子の両親は離婚しており、彼女が父親に会いに東京に行くと、父親が別の女性と暮らしている現実を突きつけられる。複雑な家庭の事情を抱えているのだ。とはいえ、里伽子のわがままっぷりは目に余る。里伽子に振り回される拓に感情移入しながら観ていると、どんどんフラストレーションが溜まっていくのを感じる。最初の好印象はどこへやら。自分勝手な言動が多い里伽子は、“共感できないヒロイン”に映るのだ。

そんな里伽子に、拓はやさしい。修学旅行先で里伽子にお金を貸すうえに、東京へ1人で向かおうとする里伽子に、心配だからとついていく。父親が他の女性と仲良く暮らしているのを知り、ホテルの部屋で泣きついてきた里伽子の肩を、戸惑いながらもそっと抱く。里伽子の邪魔にならないように、自分はベッドではなく狭いバスルームで眠った。少し不憫に思えてくるほど、拓は里伽子にやさしいのだ。




















