『べらぼう』“蔦重”横浜流星はまるで少年漫画の主人公 誰もが好きになってしまう粋な魅力

また、野心を隠すことはないものの、決して恩義は忘れないところも蔦重が慕われる理由のひとつだ。第19回では、これまで仲違いしていた鱗形屋への義理を通し、春町を陣営に引き入れることに成功。その後、なんとこれまで幾度となく蔦重の前に立ちはだかった鶴屋喜右衛門(風間俊介)さえも、日本橋通油町の総意として“耕書堂”に祝儀ののれんを手渡す。憎たらしいほどのヒールっぷりを見せていたキャラクターが、長きにわたって敵視していた主人公の実力を認めることほど、熱く滾る瞬間もない。少年漫画らしい展開が目立ったエピソードのなかでも、蔦重の主人公っぷりは際立っていた。

そして、少年漫画の主人公の弱点とも言えるのが、恋愛には疎いところ。第8回では、幼なじみの花の井が秘めた恋心に気づけずに「馬鹿らしうありんす」と呆れられる始末。しかも、当の蔦重は「何かあいつ怒ってね?」と鈍感っぷりを発揮するのだから、“べらぼう”にもほどがあるだろう。さらに、日本橋に本屋を出店するためとはいえ、丸屋の主人・てい(橋本愛)に会うやいなや、『ドラゴンボール』の孫悟空を想起させるような口ぶりで「じゃあ、俺といっしょになるってのはどうです」とあっさり求婚を申し出る。恋愛ごとにおいては常に初手から悪手を選び、一旦は蚊帳の外に追いやられるさまは、次々と新しい施策を生み出す出版プロデューサーとしての姿とは大違いだ。
しかし、そんな弱みを包み隠さず見せているにもかかわらず、蔦屋“耕書堂”という船が掲げる帆には、突飛な未来でさえも実現させるのではないかと思わせる力がある。吉原を出立して、日本橋に本屋を構えた彼が成し遂げようとする夢を、ともに見たいと思わせる魅力がある。だからこそ蔦重の背中を追って、なんとも個性豊かな面々が集まってくるのだろう。

ポップカルチャーの礎を築き、日本のメディア産業の土台を作り上げた人物こそ、今回の大河のモデルとなった蔦屋重三郎。映画、ドラマ、小説、そして漫画……すべてのエンタメの本流でもある蔦重本人が、誰よりも少年漫画の主人公ムーブをこなしているのは、ある意味、必然と言えるのかもしれない。
「版元として書をもって世を耕し、この日の本をもっともっと豊かな国にするんだよ」と語りかけた師・源内の教えを胸に抱き、ついに日本橋へと打ってでた蔦重一行。物語の後半戦も、蔦重の“粋”で“べらぼう”な少年漫画の主人公っぷりを見せてもらいたい。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送/翌週土曜13:05~再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00~放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15~放送/毎週日曜18:00~再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















