『イカゲーム』シーズン3の“敗北者”は誰だったのか シーズン2の低評価を覆す納得の結末に

『イカゲーム』シーズン3の“敗北者”は誰?

 クライマックスは、ギフンがミョンギとの闘いを制したあと。赤ん坊と2人残されたギフンは、赤ん坊にキスをし、抱きしめたあと、「俺たちは馬じゃない。人間だ」と言い放つ。そして「人間は……」とつぶやき、こちらをじっと見据えながら1人奈落に落ちていったのだ。

 フロントマンは、マスクを被ったままその様子を見つめていたが、あのマスクの中はどんな表情をしていたのだろうか。

 シーズン3では、イカゲームの元優勝者だったフロントマンが、運営側にそそのかされ、ゲームの終盤に大量殺人を犯していたことが明かされた。「家族を救うために必要なことだった」「誰もがその道を選ぶはずだ」――。フロントマンは自分を正当化したいがために、ギフンという存在が必要だったのだ。だが、ギフンは、最後までフロントマンとは違う道を選んだのである。

 主人公ギフンがこの世を去ってからの後日談にも、長く時間が割かれていた。なかでも印象的だったのは、アメリカのロサンゼルスに住むギフンの娘に、フロントマンがギフンの優勝賞金の残りを届けるシーンである。

 真っ黒なスーツを着たフロントマンは、まだ年少の子どもに銀行カードとともに血が付着した父親のジャージまで手渡す。いったいどんな想いがあったのか。そこには、ギフンに対する敬意と敗北感と嫉妬心が混在したフロントマンの複雑な心境が見え隠れする。

 果たして結末は、自ら命を絶ったギフンの敗北なのか、それとも彼の自己犠牲を目の当たりにしたフロントマンの敗北なのか。それは、この物語を個人のものとして見るか、社会のものとして捉えるかによるのかもしれない。

 いずれにしても、ネガティブなことや答えがないことを不快とする風潮が強い中で、あえて考える種を残すような締めくくりを選んだ『イカゲーム』に、個人的には喝采を送りたい。

■配信情報
Netflixシリーズ『イカゲーム』
Netflixにて独占配信中
出演:イ・ジョンジェ、イ・ビョンホン、イム・シワン、カン・ハヌル、ウィ・ハジュン、パク・ギュヨン、パク・ソンフン、ヤン・ドングン、カン・エシム、チョ・ユリ、チェ・グッキ、イ・デヴィッド、ノ・ジェウォン、チョン・ソクホ、パク・ヒスン(特別出演)
監督・脚本・プロデューサー:ファン・ドンヒョク

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