『国宝』の横浜流星が圧巻 陰と陽の“二面性”を存分に味わえる傑作に

映画『国宝』の横浜流星が圧巻だ。
6月6日に公開された『国宝』は、任侠の一門に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込んだ立花喜久雄(吉沢亮)と、歌舞伎の名門一族に生まれ将来を約束された大垣俊介(横浜流星)という立場の異なる2人が、もがき苦しみながらも芸を極めていく物語だ。

主演を務める吉沢亮は端正な顔立ちと力強い演技は素晴らしいことに間違いないのだが、吉沢演じる立花喜久雄の親友でありライバルである大垣俊介を演じる横浜の演技がべらぼうに巧い。
本作での巧さは、これまでの横浜の経歴と大きく関係しているように思える。
横浜は2012年の『仮面ライダーフォーゼ』(テレビ朝日系)でテレビドラマ初出演を果たして以降、ドラマや映画をメインに俳優として活躍している(ちなみに『仮面ライダーフォーゼ』では朔田流星を演じた吉沢亮と親友役で共演している)。近年の作品を俯瞰するとドラマと映画で演じる役は“陽”と“陰”という正反対の特性をごく自然に演じ分けているように思える。
“陽”気質のドラマ俳優・横浜流星
横浜流星はドラマにおいては明るく、目標や夢を持ち、自身の行動や発言で周囲に影響を与えていくという“主人公気質”なキャラを演じることが多い。
彼の出世作ともいわれる『初めて恋をした日に読む話』(2019年/TBS系)では、髪をピンク色に染めた不良高校生ながら東大合格という目標に突き進んでいく由利匡平を演じた。深田恭子演じる主人公の春見順子には、由利が「どんなにバカをやったって無敵な時間」である高校生であることと、特徴的なピンク髪であることから「無敵ピンク」という愛称で呼ばれていた。
さらに、その後『着飾る恋には理由があって』(2021年/TBS系)に出演。キッチンカーでバルを営む生活をするが、月で最低純利益10万円までしか稼がず、自分にとって必要なものを厳選するミニマリスト・藤野駿を演じた。
テレビや雑誌、ネットも見ない。携帯は家に置いたままというかなり極端なこだわりを持つ側面もあるが、料理への愛や人とのつながりを大切にする姿勢など周りから信頼されるなど、川口春奈演じる主人公・真柴くるみに引けを取らない輝きぶりであった。
“横浜流星から溢れ出る主人公気質”は、現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』でとくに顕著だ。
彼が演じる江戸のメディア王・蔦重こと蔦屋重三郎はとにかく好奇心旺盛で周囲を巻き込み、遊郭である吉原を文化の発信地として盛り上げることをもくろむ。
「いろんな人に助けられてきましたが、俺ゃ何もできなくて……。耕書堂を日の本一の本屋にするしか道がねえんでさ! 恩に報いるには。」(第17回)というセリフが表しているように、蔦重は大きな目標を掲げ、のちに歴史に名を残すことになる喜多川歌麿(染谷将太)、東洲斎写楽、葛飾北斎など実に多様な人々とかかわりながら夢の実現に向けて走り続ける。