『あんぱん』“のぶ”今田美桜が選んだ“愛国”の道 『虎に翼』と当時のジェンダー観が重なる

『あんぱん』のぶが選んだ“愛国”の道

 朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)第7週「海と涙と私と」のセリフの中で印象的に出てくるのが「道」という言葉。第34話で嵩(北村匠海)を追いかけてきたのぶ(今田美桜)に寛(竹野内豊)が言った「のぶちゃんは、信じる道を正直に走っていけばえい」「今は平行線に思えても、いつか2人の道が交わる日が来るかもしれん」というセリフ。そして、第35話で“嵩子”こと嵩からの手紙をのぶの前で広げた黒井(瀧内公美)が言った「忠君愛国の道」。第22話にもセリフとして登場する「美術系の道」に進んだ嵩とは対照的に、のぶは忠君愛国を信じる者の中でも指導者、教師という立場を選び、母校である尋常小学校の教壇に立った。

 振り返れば、のぶにとっての道の分岐点は第3週の時点から描かれていた。町の子供たちに体操を教えているうちに、学校の先生という夢を見つけたのぶ。今でこそ、のぶの進む道を「故郷に錦を飾った」と喜ぶ釜次(吉田鋼太郎)だが、初めは「女子は女子らしゅう」と愛娘が嫁いで行くことが当然だと思っていた。遅くなればなるほど婚期を逃す、というのが当時の考え方として根強くあったからだ。「女子も遠慮せんと、大志を抱け」という父・結太郎(加瀬亮)の教えを胸に、のぶは女子師範学校に進学し、「愛国精神の鑑」として模範の生徒となっていく。

 卒業間近、嵩からの手紙を黒井から指摘されてしまうのぶ。それは愛国精神の鑑とは程遠い姿。黒井は嵩とのやり取りを「ふしだら」と軽蔑し、「男女間の友情」を信じないでいるが、今ののぶと嵩には友情や絆を超えた、得も言われぬ関係性が確かにある。のぶにとって、嵩はつらい時にいつもそばにいてくれた人。嵩の絵にのぶは救われてきた。けれど、もうそんなこともこの先ないのだと、のぶの表情が涙で歪んでいく。

 嵩を思うのぶの心情を感じ、「あなたはやっぱり弱い」と黒井は告げた。結婚して家庭に入り子供を産み、忠良なる日本国民に育て上げる、もうひと 一つの忠君愛国の道。“そちらの道”に進むのであれば引き止めずに、手紙のことも学校には報告しないと。ここで明らかになるのが、黒井が既婚者であること。女子師範を卒業して、すぐに嫁ぎ、3年間子供ができず、婚家を追われていた。つまりは、黒井は“そちらの道”から今の忠君愛国の道に進み直した女性。のぶが本心を露わにしたように、黒井も自身の過去を話す時、顎が大きく横に動き、少し口ごもるようにして動揺を隠せないでいる。妄信的な軍国主義であっても、誰もが人としての弱さを内に秘めながら、それを強さに変えていたのではないだろうか。

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