韓国の“離婚ドラマ”は日本とは全く違う? 『離婚保険』に至るまでの描き方の変化

 シングル女性をたくましく描くフェミニズム的観点のドラマか、または離婚に至る原因を不倫に設定することで巻き起こる激しい感情劇、いわゆる“ドロドロドラマ”かという傾向が強かった。『グッド・パートナー ~離婚のお悩み解決します~』は、リーガルドラマの展開を通して世間の夫婦と離婚について考える作品だった。

『グッド・パートナー ~離婚のお悩み解決します~』予告

 大手弁護士事務所に採用されるも、希望ではない離婚訴訟専門チームに引き入れられてしまった生真面目な新人ハン・ユリ(ナム・ジヒョン)と、依頼人の利益を最優先にする現実主義のスター弁護士チャ・ウンギョン(チャン・ナラ)が、ぶつかり合いながら成長し、互いの悩みや痛みを分かち合っていく。様々な原告のケースを通じて誰しもが思い当たる節のある家族や夫婦の葛藤を丁寧に描いていた。現職の離婚専門弁護士が自身の経歴を元に脚本を手掛けたというだけあり、ストーリー展開の妙味と共にリアリティも保証付きだった。

 中でも、ラジオ番組で巷の離婚問題を歯切れよく語っていたウンギョンが、自身の夫の不倫については「仕事と家庭のため」と黙認してしまっていたのに対し、ユリが「自分の人生はどうするの?」と問いかけ、訴訟へ乗り出していくさまは、ウンギョンを一人の人間として解放していく女性同士の連帯が感じられる熱い展開でもあった。ちなみにユリも、かつて父親が不倫の末に家庭から去っていった辛い記憶がある。それでも母親と再婚相手の両方をおもんばかる「二人の女が泣いていた」というセリフに象徴されるように、男性が不倫し離婚することでかかわる女性がみな傷つくという描かれ方も、これまでの作品を振り返ると新しかった。

 最新作『離婚保険』を中心に、韓国ドラマを通じて離婚という認識への変遷をたどってみた。『離婚保険』は“離婚”というテーマそのものにフォーカスし、エンタメからもう一歩踏み込んだ演出とストーリーラインとなっているのが印象深い。家父長制の中での女性のエンパワメントという意味合いでバツイチ女性のたくましさや、不倫された女性のリベンジ的なストーリーラインに持ち込むことが多かったが、今日では女性が決して悪いわけではないという当然の主張はもはや議論の中心にはない。そして、結婚と離婚から見えてくる人間関係の複雑さや葛藤と、その解きほぐし方に視点を合わせているようだギジュンの前妻(チョ・ボア)が、決して結婚生活が不幸ではなかったにもかかわらず離婚を選択し、それをギジュンも受け入れたように、不倫や性格の不一致などの決定的な亀裂がなくても、別れてしまうことは十分にある。「努力しても雨は止ませられない」(ハンドゥル)のだ。

 劇中には、人生で起こりうるハプニングとしての離婚や、自分の力だけでは上手くいかない人間関係の比喩として様々なものが登場する。その一つに、ハンドゥルが趣味として始める編み物の例えが心に響く。曰く、編み物はひと針ひと針編んでいかないと出来上がらないところが人間関係に似ているのだと。そしてハンドゥルは「自分は上手くなりたい。編んでいると、怒りが収まり心も静かになって、失敗した私の人生も上手くいくような気がする。手探りでもやっていけば完成するかもしれないという期待もある」と、少し表情を明るくする。

 AIが発達し、効率よく“最適解”を算出してくれる現代にあって、本作の登場人物たちのように結婚と離婚、さらに再び誰かを好きになるという行為は、果たして正解とは言えるのだろうか。しかし、人間そのものが非効率で、最適解とはほど遠い存在だ。だからこそ、そんな存在同士が共に生きてていくには、寄り道をしたり、時間をかけても良いのかもしれない。編み物は、完成してみなければ何が出来上がるかは分からないのである。

参照
※1. https://kostat.go.kr/synap/skin/doc.html?fn=6c55221faba7d285b49cf5a847bcbdde288c98d0e6682658c43ac86bfbe82b15&rs=/synap/preview/board/204/
※2. https://www.cinemart.co.jp/article/news/20200910003009.html

■配信情報
『離婚保険』
Prime Videoにて配信中
出演:イ・ドンウク、イ・ジュビン、イ・グァンス、イ・ダヒ
(写真はtvN公式サイトより)

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