『教皇選挙』の静かな快進撃 ヒットの理由は“伝統と現代性の融合”と“格調高さ”にあり

質の高さをダイレクトに伝えるプロモーションのクオリティ

 ただ、どんなに良い作品であっても、世間にそれが伝わらなければ観客は増えない。『教皇選挙』は奇をてらわずにしっかりと作品の質の高さを伝えるプロモーションが展開できていたように思う。

 まず、キービジュアルがいい。中央にレイフ・ファインズが配置され、左右に枢機卿たちが並ぶ。対立関係の中で苦悩するであろう主人公を予感させるこのキービジュアルは、メインカラーが赤で統一され、強烈なインパクトを残すと同時に荘厳さと奥深さを一目で感じさせる。

 登場人物が多く人間関係が複雑なので、公式サイトにはキャラクター相関図も掲載されている。そういう基本的な心配りを忘れていないのも重要だ。そして、予告映像の他に制作舞台裏を明かす特別映像を多数公開していて、美しい美術のこだわりなどを深堀してくれているのも、うれしい要素だろう。

 また、公式サイトはネタバレ防止の暗号を入れて深い解説を読める仕掛けも用意していて、映画を楽しんでもらうための工夫が多数施されている。総じて、認知や露出を多くするだけに心を砕かず、作品の本質的な魅力を伝えてエンゲージメントを高めるという方向でプロモーションできていることで、潜在顧客にきちんと届いたのだろう。

有名だけど内実はほとんど知られていない題材「コンクラーベ」

 日本はキリスト教圏の文化ではないが、ローマ教皇を選ぶこの儀式についてはよく報じられており、馴染みのある題材でもある。だが、馴染みはあってもその内実を知る人はほとんどいない。映画で描かれた通りに、コンクラーベは徹底した秘密主義で、何が行われているのかわからないからだ。

 よく知っているのに知らない、本作ではそういうものが描かれたわけだ。だからこそ、それを知りたくなるのが人の性というもの。人々の知りたいといという欲求に応えるような作品であったと言える。

 おりしも、現実の世界で現・フランシスコ教皇が重篤と報じられたタイミングも重なり、コンクラーベが行われるかもしれないという状況で、映画への内容に注目が集まったとも考えられる。そうした偶然にも助けられながら、作品の力を的確に伝える努力が実を結びこの結果に結実したと言えるだろう。

■参考
※1. https://bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=255807
※2. https://www.bunkatsushin.com/news/article.aspx?id=255430

■公開情報
『教皇選挙』
全国公開中
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
原作:ロバート・ハリス『CONCLAVE』
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ 
2024年/アメリカ・イギリス/英語・ラテン語・イタリア語/カラー/スコープサイズ/120分/原題:Conclave/字幕翻訳:渡邉貴子/G
©2024 Conclave Distribution, LLC.
公式サイト:https://cclv-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/CCLV_movie

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