北村匠海の芝居はなぜ“リアル”なのか 『あんぱん』でも発揮されている“まっすぐな想い”

北村匠海の芝居はなぜ“リアル”なのか

 3月31日よりNHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が開始された。第1話が放送されるなり、ニット帽にメガネをかけ、50代の老けメークを施された北村匠海の風貌が「やなせさんに似ている」とSNSでも話題を呼んだ。

 北村匠海の凄さは、心理描写を丁寧に演じるところと、役における解像度の高さ。目つき、仕草、微妙な表情における筋肉の動きなど。徹底して役作りに励んでいるからこそ、その役が抱く葛藤や想いがスッと心に入っていく。今回の記事では、そんな北村の演技の魅力について紹介していきたい。

 『あんぱん』は、国民的アニメ『アンパンマン』を生み出した漫画家やなせたかし氏と妻である小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜いた夫婦を描くストーリー。第1話の冒頭は、ヒロイン・のぶ(今田美桜)の夫である柳井嵩(北村匠海)の「語り」から始まる。

「正義は逆転する。ひっくり返らない正義って何だろう。それはお腹を空かせて困っている人がいたら、一切れのパンを届けてあげることだ」

 北村は現在27歳だが、その落ち着きのある淡々とした口調からは、激動の昭和時代を生き抜いてきた人間ならではの哀愁と、貫禄が表現されていた。アンパンマンのイラストを描く嵩に対し、のぶは「嵩さん、おなかすいた」と明るい口調で尋ねる。その言葉に対し、嵩は少し照れくさそうに「仕方ないなぁ」といった様子でやさしく笑みを浮かべる。

 その表情からは何十年もの歳月を共に歩み、困難を乗り越えながら支え合ってきた妻への深い愛情も滲み出ている。その瞬間、北村は本当に凄い役者なのだと思った。表情とわずかなセリフのみで、妻のぶが過ごしてきた歳月と、そこから生まれた強い絆を表現していたのだから……。

 北村は3月30日に放送された『放送直前スペシャル はじまりの、あんぱん』(NHK総合)の中で、「(柳井嵩は)内気で人より一歩前に出る性格ではない。でもそんな嵩だからこそ、誰に対しても揺るがない愛情がある」と語っている。のぶを心配そうに眺めたり、周りの様子を見て出方を考えたり……。役を演じる上で、1人1人に愛情を感じているのは、嵩の行動や仕草を見ても、手に取るように感じられた。

 過去作においても、北村は心の内を巧みに演じている作品が実に多い。『君の膵臓を食べたい』では、余命わずかな山内桜良(浜辺美波)と出会ってからの戸惑いを、朧気な目つきや仕草で、見事に演じ切っていた。『明け方の若者たち』では、彼女(黒島結菜)と初めて手を繋いだ瞬間のもどかしさや、恥ずかしさ、嬉しさが混ざった心の内を、キョロキョロと動く目や仕草で巧みに表現。恋に揺れる様子が手にとるように感じ取れ、思わず画面越しに「青年よ、頑張れ!」と、声をかけてしまいたくなった。

 北村は、かつて『ひみつのPRIDE 北村匠海 #2』(TOKYO PRIME)のインタビュー内で「人の観察を日常的に行っていて、人の感情を読み取ることができる」と語っている。(※)常日頃から人を観察した上で、相手が「どんなことを考えているのか」を考えているからこそ、心の動きをリアルに演じ切れるのかもしれない。

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