『あんぱん』『カムカムエヴリバディ』“あんこ”がある朝ドラは名作? 思いをつなぐ象徴に
時代と世代をつないだ『カムカムエヴリバディ』のあんこ
安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)、3世代ヒロインの人生を描いた100年の物語である『カムカム』では、あんこが時代と世代をつなぎ、一度は断絶してしまった安子とるいを再び巡りあわせる重要なアイテムとして扱われている。
「御菓子司 たちばな」の味として先祖代々から受け継がれてきたあんこ。「食べる人の幸せそうな顔を思い浮かべえ。おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」という「あんこのおまじない」は「祈り」であり、『カムカム』の物語の根幹をなす要素だ。
「たちばな」のあんこの味の記憶は、戦地で死の淵を彷徨った算太(濱田岳)に生命を吹き込み、闇市で盗みを働こうとした戦災孤児の少年に生きる糧を与えた。
「たちばな」の味を引き継ぎ、るいが作る「大月」のあんこの味は、映画スターの二代目桃山剣之介(尾上菊之助)の役者魂の原点となり、大部屋俳優の五十嵐(本郷奏多)の折れそうになった心をいたわった。
「あんこのおまじない」は、AIが歌う主題歌「アルデバラン」の「君と君の大切な人が幸せであるそのために」という歌詞とも符合して、「次の世代の人たち」への願い、ひいては未来への祈りを表している。「このあんこを食べた人が幸せになりますように」という望みは、制作者たちの「この朝ドラを観た人が幸せになりますように」という願いともシンクロしているように思える。
「おかめまんじゅう」の『あすか』
『カムカム』から遡ること22年、『あすか』(1999年度後期)も和菓子をテーマにした朝ドラだった。京都の老舗和菓子店「扇屋一心堂」経営者の孫として生まれ、やがて和菓子職人となるヒロイン・あすか(竹内結子)。本作は彼女が「一生一品」(生涯をかけてたどり着く、後世に残る菓子)に巡りあうための旅路を描いた作品だ。
あすかは、駆け落ちした両親と本家の断絶により、自然豊かな奈良県明日香村で育つが、その後京都に戻り、高校卒業後に「扇屋一心堂」で職人として修行をはじめる。店の主力商品は茶会に出す上菓子ではあるものの、暖簾を守る職人の原点は、元禄時代から変わらない、こしあんのぎっしり詰まった「おかめまんじゅう」であった。
その後あすかと「扇屋一心堂」はバブル崩壊にともなう店の倒産など、波乱の道のりをたどるが、バラバラになった血縁の家族と、店を守ってきた広義の“家族”を呼び戻し、つなぎとめるのはいつでも「おかめまんじゅう」だった。
修行に入りたてのあすかに、父の禄太郎(藤岡弘、)はおかめまんじゅうを手に取りながら、職人の心得をこう説いた。
「一生一品。この店でいうたら、おかめまんじゅうやな。元禄時代の職人の菓子を作る心が今も生きとる。ほんのり甘うて、食べたらなんや、あったか〜い気持ちになる。ちょっとぐらい辛いことがあってもええなないか。まんじゅうはいつかて甘いで」
奇しくも22年後の朝ドラ『カムカム』の「食べる人の幸せそうな顔を思い浮かべえ」「おいしゅなあれ」に通ずるものがあるではないか。
かくして「あんこ」は、朝ドラの中でいつでも作る人の思いをつないで、食べる人の心を温めてきたのである。
「扇屋一心堂のおかめまんじゅう」は、『あすか』の翌年に放送された『オードリー』(2000年度後期)にも登場する。ヒロイン・美月(岡本綾)の養母で老舗旅館「椿屋」を営む滝乃(大竹しのぶ)は、「扇屋一心堂のおかめまんじゅう」を客の「お着き菓子」として常用している。美月を映画の道にいざなう椿屋従業員の君江(藤山直美)が、おつかいで「おかめまんじゅう」を買いに行かされるが、途中で太秦の撮影所に寄り道をして、チャンバラに見入りながら大好物の「おかめまんじゅう」をつまみ食いする姿が、第1話で描かれている。
みんな大好きな“あの味”、あんこ。『あんぱん』、そして未来の朝ドラの中で、「あんこ」の扱われ方に着目してみるのも一興ではないだろうか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、志田彩良、二宮和也、瀧内公美、山寺宏一、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、阿部サダヲ、妻夫木聡、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK