『ワンピース』の後継枠に異色作 『TO BE HERO X』は“メディア社会”を意識した作品に?

『ワンピース』後継枠『TO BE HERO X』を考察

 加えて、X=特定の個人名ではない可能性も含めるならば、彼がその称号を得るに至った経緯もまた大きな謎だ。本作におけるXとは、ヒーローの制度が生み出した偶像の象徴であり、言い換えれば制度そのものへの批評的視点を内包したキャラクターとも考えられる。

 そんなXに声をあてるのは、宮野真守である。『DEATH NOTE』の夜神月役をはじめ、『文豪ストレイドッグス』の太宰治役、『うたの☆プリンスさまっ♪』の一ノ瀬トキヤ役など、宮野は数多くのカリスマ的キャラクターを演じてきた。美声と圧倒的な演技力に加え、近年では舞台や音楽活動などでも存在感を発揮している。Xというキャラクターが持つ、二面性は『文スト』の太宰や、『ゾンビランドサガ』の巽幸太郎にも共通する要素であり、キャスティングの妙を感じさせる。

 現段階では、Xのキャラクター像は“語られざる余白”が多くを占めている。しかし、宮野が選ばれたこと自体、Xという存在が強さと謎を併せ持つ異質なヒーローであることを示す伏線に思えてならない。

 Xを取り巻くのは、他の9人のトップヒーローたちである。いずれもキャラクタービジュアルや設定文から、明確な個性と背景を持っていることが読み取れる。とりわけ注目すべきは、信頼の本質が物語を通じて変動するという点である。これはすなわち、ヒーローたちが静的存在ではなく、物語の中で評価や役割が変化していくということでもある。また、作品全体が群像劇的構造を持っている以上、Xの視点だけに限定されるのではなく、他のヒーローたちの視点を通してXの姿が浮かび上がってくる構成が期待される。彼は果たして、尊敬されるリーダーなのか、それとも支配的な象徴なのか。信頼と畏怖は、どこで分かたれるのか。こうした問いが、ドラマの中核を形成していくのではないだろうか。

 Xの正体は物語の根幹に深く関わる要素である。単なる強者としてのヒーローではなく、信頼という制度を最も理解し、あるいは利用している存在である。もしかすると、信頼値システムそのものに懐疑的であり、それを覆すために頂点を目指した人物かもしれない。あるいは、X自身がヒーローという制度の限界を体現する存在なのかもしれない。

 本作が誰もがヒーローになれるという幻想のもとに構築されている以上、Xの存在は絶対的な支配者ではなく、むしろ「信頼とは何か?」という問いを観る者に突きつける存在として、物語全体を牽引していくのではないだろうか。誰もが知り、誰も知らない“X”という存在が、どのように描かれていくのか。初回放送のその瞬間を、今はただ静かに待ちたい。

■放送情報
『TO BE HERO X』
フジテレビ系にて、4月6日(日)スタート 毎週日曜9:30〜放送
出演:宮野真守(X役)、花澤香菜(クイーン役)、内山昂輝(梁龍役)、中村悠一(黙殺役)、松岡禎丞(リトルジョニー役)、佐倉綾音(ロリ役)、水瀬いのり(ラッキーシアン役)、山寺宏一(トラ役)、島﨑信長(魂電役)、花江夏樹(ナイス役)
原作・監督:Haolin(リ・ハオリン)
オープニングテーマ:「INERTIA」SawanoHiroyuki[nZk]:Rei
エンディングテーマ:「KONTINUUM」SennaRin
メインテーマ:澤野弘之「JEOPARDY」
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO、ケンモチヒデフミ、DAIKI (AWSM.)、睦月周平、深澤秀行、馬瀬みさき、髙田龍一(MONACA)
制作:BeDream
製作:bilibili & BeDream, Aniplex
©bilibili/BeDream, Aniplex
公式サイト:https://tbhx.net/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/tbhx_officialJP

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