『ホットスポット』バカリズムに聞く“リアリティ”の生み方 「絶対重要なセリフは特にない」
「SF史上かつてない小スペクタクルで贈る、地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー!」という謳い文句でスタートしたバカリズム脚本×市川実日子主演のドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)がいよいよ最終章に突入。「富士山麓のとある町」に宇宙人が住んでいること、ビジネスホテルで働くシングルマザーの主人公・遠藤清美(市川実日子)がそれを知ってしまうことからスタートした、とてつもなくスケールの小さな宇宙の話はいったいどこに向かうのか。それにしても、毎度驚かされるのは、どこから湧き出るのかわからないバカリズムの着眼点、そして、まるで自分や友人の話、職場の様子を盗み聞き&盗み見されているのではないかと思うほどのリアリティだ。バカリズムの発想・観察力が湧き出す「ホットスポット」に迫った。(田幸和歌子)
宇宙人の設定と「日常」「地元」が違和感なく調和する作劇
――最初に宇宙人が出てくるという設定を知ったときは驚きましたが、宇宙人と「日常系」「地元系」が違和感なく調和していくのがバカリズムさんならではだと思いました。
バカリズム:本当はSFっぽい感じではない企画をいくつか出して、数合わせや他とのバランスを考えて、「職場の同僚が宇宙人だとカミングアウトしてきた話」くらいの2〜3行の企画を入れたんですよ。これが採用されるとは全然思っていないから、特に深く考えていなかったんです。そしたらなぜか小田玲奈プロデューサーも水野格監督も「これが一番どうなるか見えないし、こんな設定は地上波のドラマで見ないから面白そう」と言って、そこから具体的にどうしようかみたいな感じで始まりました。
――どうなるか見えない企画が通るのは、『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の成功例があったからですか?
バカリズム:『ブラッシュアップライフ』は一応生まれ変わる話だから、展開はある程度は想像つくし、目的も作りやすいですよね。後半に大きく展開が変わったのも、4話ぐらいの時点でなんとなく「これが実現できたら面白いですよね」と話していました。でも、今回は本当に最終的にどうなるのか自分自身にも見えないまま書き始めたんです。とりあえず1話書いてみて次どうしようか、2話書いたけど次どうしようかという感じで、結末の方向性はぼんやりとあるけど、結局「こうしましょう」と決めたのは6話か7話を書いているころでした。
――全体の話数の中で大まかなプロットを最初に作るわけではないのですか?
バカリズム:ないですね。今回は特に大まかなものも何にもなく1話ずつ書きました。
――視聴者にとってはわからないのが楽しいですが、書いているバカリズムさんご自身には、先のわからない怖さはないんですか?
バカリズム:怖いですよ(笑)。だから一応書いて出して「面白いですね」と言われても「本当に大丈夫かこれ?」と思いつつ、何も見えていない中で「こういう方向にしていきましょうか」とちょっとずつ固めていきました。
――第1話のトーンのまま最後まで進んでいっても面白いのに、後半に衝撃展開があった『ブラッシュアップライフ』を観ているだけに、視聴者はハラハラします。
バカリズム:僕自身はずっと同じトーンでいいし、僕が視聴者だったらそれを観たいんですけど、そういうわけにもいかないから、一応着地点みたいなものを最終的に何か設定しますかという話にはなるんですね。今回は『ブラッシュアップライフ』よりもさらにスケールが狭いというか、より笑いが強いので、それを楽しんでもらえればと思っています。
角田晃広の“高橋さん”が誕生した経緯
――笑いの肝となる宇宙人・高橋さん(角田晃広)の特徴や副作用の設定は絶妙ですよね。
バカリズム:副作用は、打ち合わせのときに「熱が出るとか副作用があると面白いですね」と思いつきで言ったらウケたから、そのまま入れたんですね。あとは演者さんとか監督とかプロデューサーさんを笑かすために「知覚過敏」とか「なんかハゲる」とか、いかに宇宙人から離れた人間らしい特徴を入れるかを大喜利感覚で決めていきました (笑)。その後大変になるとかは考えずに、この話が面白くなればいいやぐらいの感覚で入れているから。
――「宇宙人っぽくない」が大前提にあるわけですよね。
バカリズム:大前提ですね。いわゆる宇宙人宇宙人したビジュアルとかじゃないほうが面白いし、普通に地球人のふりしているんじゃないかみたいな説もあったりするから、だったら、より人間っぽいほうがいいんじゃないかなという感じですよ。
――バカリズムさんの中に「宇宙人は本当はいるんじゃないか」といったロマンみたいなものもあるんですか?
バカリズム:そうですね。別にいてもおかしくないし、ゼロではないじゃないですか。 ゼロではないってことは、そこは膨らませる余地があるわけだし、そっちのほうが笑いも作りやすいし、お金もかからないし(笑)。
――宇宙人の「猫背」設定もおかしいですよね(笑)。
バカリズム:宇宙人の特徴として弱いというか、「いや、地球人もいるよ」っていう要素を探したら、猫背ぐらいかなと(笑)。そしたら、別にそこまで守ってもらわなくてよかったんですけど、角田さんがそれをずっと忠実にやってくれていて、ちょっと申し訳ないなと思っています(笑)。
――最初に高橋さんの写真を見たとき、うっすら姿勢への違和感がありましたが、後で「あれは宇宙人の特徴だったのか」と知り、その後改めて観ると、仕事中は背筋が微妙に伸びていて。微妙な匙加減を身体表現で魅せるのはすごいですよね。
バカリズム:高橋さんはフロントマンだからね(笑)。僕自身は猫背を思いつきで言って、忘れていたくらいなのに、そこはもう角田さんが見事にやってくれています(笑)。
――清美(市川実日子)や地元の友人、職場の同僚などもそれぞれ個性的ですが、キャラや配置、バランスはどんな感じに作っていくのですか。
バカリズム:全然考えていないんですね。書きながら、「こういうところでこういうことを言う人がいたら、こう返す人もいるよね」くらいで、1つ1つの会話が面白くなればと。この間はツッコミ役だった人が次はボケになるというのは、どこの世界でもあることだし、バラエティーなんかでは、場所とか話す相手によって自分の立ち位置が変わるものなので、そこまで気にせず、あとは役者さんが勝手にやってくれるだろうと思いながら書いていきました。清美にこれは言わせようとしているとか、葉月(鈴木杏)にこういう立ち位置を取らせようとしているなどは、無意識に出ているかもしれないですけど、最初から意識して設定しているわけじゃないです。
――無茶なお願いをする人間たちと、なんだかんだ渋々応じてしまう宇宙人は、ドラえもんとのび太たちの構図にも似ていますね。
バカリズム:ドラえもんとのび太は確かに。それはもう、僕の体に染み付いているので、無意識にそういうやりとりになっているかもしれないです。
バカリズムは“女性同士のリアルな会話”をどう描いているのか?
――毎度、女性たちの会話が非常にリアルですが、バカリズムさんはそうしたリアルをどこでどんなふうに採集しているんでしょうか。日頃からファミレスなどで女性たちの会話を何気なく聞いてしまったり?
バカリズム:いや、聞いてない聞いてない(笑)。採集も何も、男性である自分も思うことをそのまま書いているだけなので。基本的に男も女も考えること、「自分がこの立場だったらこう思うよな」ということを言っているだけなのに、女性の視聴者が「リアルだ」と受け取ってくれているだけなんです。
――学生時代などプライベートのご友人には女性が多いとか?
バカリズム:女性の友達は学生時代多かったですけど、関係ないですね。脚本を書きはじめた頃は、専門学校時代に女子グループにいたからそれも関係あるのかなとか思ってそう答えていた時期もあるんですが、「いや、違うな」と思って。男性同士でもああやってダラダラ何時間でも喋ったりするし、僕も若手時代お金がないときは芸人同士でずっとファミレスで喋っていたし、男女差は全然意識していないんですね。みんなのものを女性たちが女性のものだと解釈して喜んでくださっているのは嬉しいんですけど。僕がなんとなく思っていることを書いたらみんなも思っていただけで、「あるある」だと思って書いているわけでもないし。性別、年齢、見た目とか関係なく書いているのに、バチッと当てはまっていると受け取ってもらえるのは、役者さんたちが台本に書いてあることを、今自分がその場で思いついて言っているかのようにナチュラルにやってくださるからだと思います。
――バカリズムさんの世界観にハマる役者さんの条件はありますか? セリフ量も多く、掛け合いのテンポの良さや「間」の取り方、笑いなど、かなりハードルが高そうです。
バカリズム:何だろう。まず台本を面白がってもらえることじゃないですかね。読むのは役者さんなので、「1回役者さんを笑かさないとな」という思いがある。実際、セリフ量が多いから、それでつまらなかったら地獄じゃないですか(笑)。そんなにしんどい仕事はないから、せめて面白いと思ってもらえるように、そこは第一に考えますね。
――低体温なテンションの人のほうがハマるところはありますか?
バカリズム:そうですね。ていうか、実際、僕らの日常ってみんな低体温ですよね。ドラマとかに出てくるようなハイテンションな人とか、いないじゃないですか。言いたいことを大声でバチッと言う人っていないと思うんですよ。大事なことは意外にとっておいたり、心の中だけでツッコんだりするもので。「いつも通りのテンションでやってください。最悪聞こえなくてもいいので」と役者さんたちには言っています。絶対重要なセリフって、特にないんですよ。それよりもそこに本当に存在していることのほうが大事なのでとお願いしています。