上白石萌歌のすべてが詰まった映画『366日』 豊かなキャリアが活かされた“俯瞰的視点”
1月10日に封切られてからというもの、客足を伸ばし続け、早くも2025年の話題作のひとつとなっている映画『366日』。物語にしろ、そこから見えてくるテーマにしろ、この作品が支持される理由はいろいろとあるのだろうが、そのうちのひとつはやはり、俳優たちの好演ぶりだと私は思う。優れた俳優が揃ってこそ、広く親しまれる作品はより愛されるものになる。本作でその一翼を担っているのが、ヒロインを演じる上白石萌歌である。
この『366日』とは、人気バンド・HYの代表曲である「366日」をモチーフとしたラブストーリー。沖縄と東京を舞台に、20年にわたる男女の恋愛模様を描く作品だ。物語のはじまりは2003年の沖縄で、ここで生まれ育った真喜屋湊(赤楚衛二)と玉城美海(上白石萌歌)は出会い、恋人同士となる。やがてふたりは生活の場を東京に移して幸福な日々を過ごすが、ある日突然、湊は美海の元から去っていく。湊は東京での生活を続け、心の傷を抱えた美海は故郷へ。それからは別々の道を歩んでいくことになるわけだが、15年後のある日、思いがけぬかたちでふたりの想いは巡り合う。
このあらすじから分かるとおり、上白石は美海の高校時代から、大人になった姿までを演じている。しかも物語の後半では結婚し、母親になった姿まで体現。上白石の実年齢的にはまだ高校生役を演じられるものとあって、これには驚かされたものだ。
とはいったものの、近年の上白石の出演作を振り返ってみると、もう高校生役を演じているわけではない。
赤楚との共演作でもある『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(2023年/TBS系)で演じていたのは若い高校教師であったし、『パリピ孔明』(2023年/フジテレビ系)で演じていたのは音楽の世界での成功を夢見るシンガー、ほんの少しだけ登場した『ゆとりですがなにか インターナショナル』(2023年)では教育実習生を、主役級の俳優陣が勢揃いした『滅相も無い』(2024年/MBS・TBS)では田舎のオルゴール記念館でアルバイトをしている女性を演じていた。
ここから分かるのは、子どもから大人へと変化していく段階にある女性を、近年の上白石は数多く演じているということだ。そしてまさに『366日』には、玉城美海という少女が大人になっていく過程が刻み込まれている。この過程では、恋をして、幸せな気持ちで胸がいっぱいになって、傷ついて、悲しみに打ちひしがれて、そして周囲の支えを借りてどうにか立ち上がって……といった美海の半生が、俳優・上白石萌歌を媒介として立ち上がっているのだ。
2000年生まれの上白石はまだまだ“若手”に分類される俳優だが、芸歴でいえば10年を優に超えている存在だ。この期間に築き上げてきた豊富なキャリアが、もう彼女のことを高校生役にとどめることなく、その先へと進ませようとしているのかもしれない。