坂東龍汰×南果歩、『君の忘れ方』“親子”対談 2人が考える喪失との向き合い方とは?

楽しい感情じゃないのに、“楽しい”芝居

――本作は坂東さんにとって初の単独主演映画ですが、やはり特別な思いがあるのでしょうか?
坂東:覚悟はありました。自分が向き合うべき作品だと思ったし、不安の中にも、監督の大切な脚本に僕なら120%向き合えるんじゃないかという自信があったので。僕が昴を絶対に演じたいと思いました。
――南さんは喪失からの回復について、どんな思いで向き合いましたか?
南:私はこのシナリオを読んで、それぞれの人生で出会う悲しい出来事はあるけれど、それを一人では克服できなくても、同じ思いを共有できる仲間と出会い、いろんな人の影響を受けることで、徐々に再生できるのだと感じました。洋子に一番関わってくれたのは、息子の昴であり、昴は自分の悲しみを抱きつつ、母の異変に気づいて、母が別の方向に進もうとしてしまう瞬間に、言葉で、態度で、そこじゃないよという信号を伝えてくれているんですね。坂東くんの言葉や演技に説得力があったので、他者の力ってすごく大きいんだなと感じました。後半は特にハッとする不思議な瞬間が多かったです。相手の思いなどが自分の中にスッと入ってきたとき、それは決して楽しい感情じゃないのに、“楽しい”んですよね。
坂東:演じているときのキャッチボールの楽しさはありますね。

――それはお芝居に没入する高揚感のようなものですか。
南:他者との心の交流ができている楽しさってあるじゃないですか。それを坂東くんとのお芝居の中で何度か感じたので、この若さでそういうことができるってすごいなと感じましたし、面白い時間を共有できたなと思いました。悲しい気持ちを抱えつつも、日々生きている中では、ふとリラックスするタイミングだってある。坂東くんはそんないろんな昴の感情を自分の真ん中において生きている人だと思いました。私も一緒にやっていて、辛い場面なのに、すごく楽しい瞬間がありました。
坂東:2人が揉めてぶつかり合うシーンとかも。
南:あれ、楽しかった!(笑)
坂東:ハイタッチしたいくらいでした(笑)。あのシーンは一発で終わったんですよね。それまでの準備に時間をかけて。
――準備の段階ではディスカッションなどもされたのですか?
南:ディスカッションはあまりしない。しなくても良い相手っているじゃないですか。
坂東:何気ないシーンとかでも、空間の熱みたいなものを感じられたんですよね。
――特に印象に残っているのはどんなシーンですか?
坂東:僕は市役所で、並びで話していたシーン。「なんで再婚しなかったの?」というやりとりで。
南:あのシーンはすごく親子っぽいよね。全然違う目的で来ているのに、ふとそういう言葉が出るんだよね。
坂東:それと、久々に実家に戻ってきたときの車の中での会話とかも、返事も生返事で(笑)。
南:そう。洋子にとっては、帰ってきただけで嬉しいけど、昴はそうでもないみたいな空気がもう、楽しいなと(笑)。
坂東:ドラマチックなシーンももちろん印象に残っているけど、さりげない会話とかも良くて。
南:むしろそっちの方が難しいよね。
坂東:自分の中にリアルに違和感なく落とし込むってことでは、何気ない日常会話のほうが難しいし、面白い。僕は撮影中、南さんを本当にお母さんだと思っていたから。

――親子をやれるなと実感したのはどのぐらいのタイミングでしたか?
南:最初に会った瞬間から。持っている雰囲気ですぐに。
坂東:最初に席についた瞬間、目が合った瞬間かな。
――この作品は、観る側が自分の喪失と向き合うきっかけにもなる気がします。私自身、コロナ禍に友人を2人亡くしているんですが、今もLINEのやり取りが残っているので、もしかしたら既読になるんじゃないかと思い、LINEを送ってしまったんですね。震災やコロナ禍以降、そうした人の生と死の境も曖昧になっている感じがして、「忘れる」ことは必要なのかと思うこともあります。
坂東:僕自身、この作品から、忘れないことの大切さを改めて思い出させてもらったなと思うんです。タイトルは『君の忘れ方』ですが、僕はダブルミーニングというか、逆の意味もある作品だなと思っていて。「君の思い出し方」という意味、メッセージもこの作品には込められている。例えば僕も父親も、年月が過ぎていく中で、身内の命日とかを忘れて「今日だったっけ」みたいなことはあるんですよ。でも、そういう中でも、君のことをたまには思い出すということが大事なのかなと教えてもらった気がします。
南:私はそれでいいのかなと思っていますね。何かあったときにふと思い出す人がいるだけで幸せというか。生きている人でも亡くなった人でも、関わりを持てた人が私にはいるということが支えになると思うし、会って話ができればなお、良いけれど、いない人との会話の仕方もあるじゃないですか。私も親友を亡くしているので、彼女だったら、こういうときにどう言うだろうかなとか、そういう思い出し方は時折あります。彼女はもういないけど、私の中では彼女がまだ20代のままの姿で親友としてずっといて、そういう人がいることはきっと幸せなことじゃないかなと最近思えるようになって。そんなことをこの作品から改めて感じましたね。
■公開情報
『君の忘れ方』
新宿ピカデリーほかにて公開中
出演:坂東龍汰、西野七瀬、円井わん、小久保寿人、森優作、秋本奈緒美、津田寛治、岡田義徳、風間杜夫(友情出演)、南果歩
監督・脚本:作道雄
共同脚本:伊藤基晴
エンディング歌唱:坂本美雨
音楽:平井真美子、徳澤青弦
後援:飛騨市、高山市、飛騨市観光協会、高山市文化協会、飛騨高山観光コンベンション協会、飛騨市ロケーション促進事業、飛騨市企業版ふるさと納税
配給:ラビットハウス
2024年/日本/カラー/16:9/5.1ch/107分/G
©「君の忘れ方」製作委員会2024
公式サイト:https://kiminowasurekata.com
公式X(旧Twitter):@kimiwasu_eiga
公式Instagram:@kimiwasu_eiga




















