『ライオンの隠れ家』洸人とともに悩み抜いた3カ月間 “自己責任”が先行する社会の希望に

『ライオンの隠れ家』洸人が辿り着いた答え

 『ライオンの隠れ家』(TBS系)を祈るように見続けた3カ月間だった。両親を亡くした後、自閉スペクトラム症の弟・美路人(坂東龍汰)の歩調に合わせて、いわゆる「きょうだい児」として生きる洸人(柳楽優弥)も。自分のできる範囲で自立しようと努力している美路人も。

 15歳の多感な時期に実母に捨てられ洸人たちの家にやって来たものの、問題ばかり起こして家出をしていった愛生(尾野真千子)も。その愛生の息子でDVから逃れてきた「ライオン」こと愁人(佐藤大空)も。

 ライオンたちの偽装死を手助けし、自らもDV被害者だったことが判明した柚留木(岡山天音)も。そして、養子として入った家族からも愛されず、誰よりも家族という居場所に憧れながらも、自らの暴力でそれを壊すことを止められない祥吾(向井理)も。みんなが幸せになってくれと願わずにはいられなかった。

 絡まってしまって、どこからほどいていったらいいのかわからなくなってしまった糸のように。複雑になってしまった愛情のかけ違いを前に、私たちも洸人といっしょにどうしたらいいのか迷い、ときに自分の弱さに落胆し、それでも模索し続けてきた。そんな3カ月間だった。

 思えば、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった発達障害、ヤングケアラーになっているきょうだい児、大人になっても症状が続く幼児期の愛着障害……これらの話題が令和の時代になって急に身近なものになったように感じている。

 もちろん、かつてもそうした困難を抱えていた人はいたはず。だが、そうした人たちの姿がよりハッキリと見える形になってきたのではないか。発達障害については、国内で医師の診断を受けた人が約48.1万人(厚生労働省調べ)と推計され、正式な診断を受けていないグレーゾーンに当てはまっていると感じている人を含めると、さらに身近なものになると言われている。

 また、そうした調査結果が公表されることに加えて、SNSの普及によって当事者の声も広く届くようになったことも大きい。生まれた子どもに障害があった。物心ついたころから障害のあるきょうだいと育ってきた。生きづらいと思っていたら、実は自分が、あるいは配偶者が障害と診断される特性を持っていた……など今日もどこかでつぶやかれる声たち。

 自分自身が障害を抱えながら生きる難しさ、そして障害とともに生きていくことになった家族の大変さ。それらはいつでも誰にでも、ごく普通の家庭に起こり得るものなのだという認識が浸透してきたのではないだろうか。

 綺麗事ではいかない日々を過ごしている人たちがいる。助けを求めることができずに追い詰められてしまう人たちがいる。その結果、悲しいニュースにいたってしまったという現実に心を痛めるばかりだった。だからこそ、そんな事実を知った先に希望が持てるドラマが見たいと思った。

 「そのプライドは安全ですか?」とは、ライオン(=愁人)を心配する美路人の言葉だ。ライオンはプライドと呼ばれる群れを作って集団生活を送る。そして妊娠したメスライオンは一時的にプライドから離れて出産すると、子ライオンを連れて戻ってくるのだそう。そして、久しぶりに会う仲間との再会を喜び、子ライオンの誕生を歓迎し、仲間と協力して育てていくのだという。そんなライオンの習性を知るほど、社会性の高さに驚かされるばかりだ。

 対して、現代日本ではどうだろう。子育てや介護などを通じて助けが必要な状態の人が、どんどん孤立していってはいないだろうか。「自己責任」という言葉ばかりが先行して、相手の事情に踏み込むことにとても勇気がいる時代になってしまった気がする。

 たしかに、他人に関わらないほうが自分の心を乱されずに済む。良かれと思ってしたことを拒否されれば面白くないし、首をツッコんだはいいものの大きく状況を変えることができずに歯がゆい思いをするかもしれない。

 だが、このドラマを観ていると思うのだ。寅じぃ(でんでん)のように「よぉ!」と声をかけるだけでホッとできる瞬間がある。洸人の同僚である美央(齋藤飛鳥)、洋太(岡崎体育)のように、事情を黙って見守ってくれているだけでもいい。大袈裟なことをしなくとも、その小さな信頼の積み重ねによって困っている人がヘルプを出しやすい空気が作られるのではないかと。

 味方がいる。そう思えるだけで、たとえ実際に動いているのは自分だけであったとしても、心に余裕が生まれるものだ。記者の楓(桜井ユキ)との連携もそう。最初こそ行き違いによって信用を失ったものの、楓自身の事情について耳を傾けることができたのは、すでに洸人が独りではないと思えればこそだろう。

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