『光る君へ』“物語”の意義を突きつけた最終回に 吉高由里子の繊細な演技が残した余韻

『光る君へ』最終回が突きつけた物語の意義

 『光る君へ』(NHK総合)最終回「物語の先に」。まひろ(吉高由里子)は倫子(黒木華)から道長(柄本佑)との関係を問いただされ、2人のこれまでを打ち明けた。倫子は、道長が大切にしていた漢詩がまひろが手掛けたものだったと知る。まひろが去ったあと、道長が倫子に何を話していたのかと尋ねると、倫子は「取りとめもない昔話を」と受け流した。

 まひろを演じる吉高の表情が複雑な余韻を残す最終回となった。特に、まひろと倫子、まひろと道長、そして物語の終わりに描かれたまひろと双寿丸(伊藤健太郎)のやりとりにはそれぞれに異なる緊張感がある。そしてこれらの緊張感は、これまで描かれてきた物語がいかに味わい深いものだったかを視聴者にあらためて感じさせるだけでなく、“物語の先”、武士の台頭を思わせるラストへもつながっていた。

 まずはまひろと倫子について。倫子はまひろから道長とのこれまでを聞くと「このことは死ぬまで胸にしまったまま生きてください」と告げる。まひろにとって倫子は、自身との身分の違いを気にせず、おおらかに学びの会へと導いてくれた大切な友人だ。まひろが道長との長い縁について包み隠さず打ち明けるさまには驚かされたものの、悩みながらも正直に語り出すといった吉高の演技を観ていると、大切な友人だからこそ取り繕うようなことはしたくないというまひろの気持ちが伝わってきた。

 当然、まひろと倫子の友情には綻びが生じてしまうが、まひろは倫子の心を傷つけたくて語り出したわけではない。だからこそ、「それで全て? 隠し事はもうないかしら?」と問われた時、まひろはもの悲しげな面持ちで「はい」と返すことしかできなかった。道長との間にできた娘・賢子(南沙良)のことを打ち明けることはとてもではないができない。一人、琵琶を奏でるまひろの面持ちはなんとも切なかった。

 最終回の演技の中で圧巻だったのは、やはり道長との場面だろう。倫子から呼び出され、まひろは病床に伏した道長と会う。倫子から「どうか殿の魂をつなぎ止めておくれ」と頭を下げられたこともあると思うが、衰弱しきった道長の姿を見た時、まひろ自身も生きる気力を失った道長の命をどうにかつなぎ止めたいと強く願ったはずだ。悲しみを抑えて道長に微笑みかけ、「道長様。お目にかかりとうございました」と優しく声をかける姿にも、そして道長が伸ばした手に触れた瞬間、感情が溢れ出して涙を流す様にも、まひろの道長に対する深い深い愛情が観る人の心に流れ込んでくるようだった。続く、まひろの台詞もまた心に響く。

「光る君が死ぬ姿を描かなかったのは、幻がいつまでも続いてほしいと願ったゆえでございます」
「私が知らないところで道長様がお亡くなりになってしまったら、私は幻を追い続けて……」
「狂っていたやもしれませぬ」

 嘘偽りのない本心であり、これまでになくまっすぐな告白だったように思う。

 まひろは道長のもとへ通い、道長が望んだ“新しい物語”、道長のためだけに作り上げた物語を語り続ける。「続きはまた明日」と口にし、道長の命をつなぎ止める描写は、穏やかでありながらもやはり切ない。「生きることは……もうよい」という道長の言葉に耐えきれずに涙を流す吉高の演技には、大切な人に先立たれたくないという気持ちが痛いほど伝わってきて心をかき乱された。

 それでも命には終わりが来る。道長が息を引き取った日、まひろは自身を呼ぶ道長の声を聞いた。筆を執る手を止め、道長がその生涯を閉じたことを察したように前を向く表情が心に残る。吉高の演技が表したのは単純な悲しみや苦しみではない。道長の死を悼みながらも、第47回の隆家(竜星涼)の台詞にもあったように、悲しくとも苦しくとも人生は続いていくということを感じさせる、そんな表情だった。

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