『光る君へ』大石静の脚本に驚かずにはいられない“物語”の凄み 奇妙に交差する母子の運命

『光る君へ』大石静脚本の凄み

 ここに、「父・母のようにはならない」と心に誓った人物が2人いる。でもどうしても同じ道を歩んでしまうのが、人間の宿命というものなのか。1人は道長だ。第32回で晴明(ユースケ・サンタマリア)に「父の真似をする気はない」と言うように、未だに父・兼家(段田安則)を意識しているように見える道長は、その反面、娘・彰子の渾身の訴えを拒み、息子・頼通(渡邊圭祐)の結婚話を本人の意志とは関係なしに決めようとする。

 かつての自分やまひろのような若者たちの思いを拒む側に立たなければならないほどに、彼は「父・兼家を越える存在」になってしまった。道長の「父子」の物語は、父・道長と子どもたちの物語である以上に、彼にとっての未だ消えない父・兼家との相克であるように思う。

 もう1人はまひろの娘・賢子である。「母上と同じ道を行きたくはございません」と言ったそばから賢子は意図せずして母が辿ってきた道を歩いている。第39回における賢子の裳着の場面は、第2回におけるまひろの裳着の場面をはっきりと思い起こさせる。「これでお前も一人前だ。婿もとれるし子も産める」と言う惟規(高杉真宙)の言葉は第2回の宣孝が口にした同様の言葉を反芻させ、「重とうございます」という賢子の言葉は、「重っ」と言って登場した吉高演じるまひろを想起させる。惟規が言う通り、父・為時(岸谷五朗)との仲が最悪だった当時のまひろと、まひろが許せない賢子の現在も同じだ。さらに賢子の前に現れたのが若武者・双寿丸(伊藤健太郎)である。

 第40回において町辻で、乙丸(矢部太郎)を従えて芸人たちを見ていた賢子が、うりを盗んだ盗人を追いかけ、その窮地を救ったのが双寿丸だった。第40回の賢子と同様、まひろが、町辻で仲間たちと芸を披露する直秀(毎熊克哉)の導きにより、道長と再会し初恋が始まった第2・3回を思い起こさずにはいられない。双寿丸は、直秀と重なる役柄のようで、道長とまひろのような初恋を予感させる存在でもあり、若武者ということで時代の変化を感じさせる存在でもある。かつてのまひろの物語を、まひろの娘である賢子が踏襲する。その果ての第40回は、双寿丸に対し「あなたこそ誰?」と問うまひろの姿で終わっている。奇妙に交差する母子の物語。彼との出会いが、賢子とまひろにどんな影響を与えるのか。

■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK

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