『宙わたる教室』は“青春”の始め方を教えてくれる 窪田正孝と渡り合う小林虎之介の名演

『宙わたる教室』が描く“青春”の始まり

 定時制高校を舞台にした窪田正孝主演のNHKドラマ10『宙わたる教室』が幕を開けた。本作は、読書感想文の課題図書にも選ばれた伊与原新の小説を原作とした大人の青春ドラマ。第1話では、生徒の1人・柳田岳人(小林虎之介)の遅れてきた青春の始まりを告げるかのように、綺麗な青空が夜の教室に広がった。

 冒頭、木星の氷衛星探査の研究集会で宇宙航空研究開発機構(JAXA)の本社にやってきた主人公の藤竹叶(窪田正孝)が、JAXAの職員で大学の同期である相澤努(中村蒼)と会話する場面が描かれる。窪田と中村の共演は、2020年に放送されたNHK連続テレビ小説『エール』以来。長い撮影期間を共にした2人だけあって、4年という月日を感じさせない安定感のあるやりとりに思わず胸が熱くなった。

 窪田がNHKドラマで主演を務めるのも4年ぶり。今回演じる藤竹はもともと惑星科学の研究者で、大学の助教授にまで上り詰めたが、突如渡米。帰国してからも、どこにも所属せず能力を持て余している藤竹に相澤はもどかしさを覚えているようだ。

 そんな相澤に「やりたい実験があって」と語った藤竹が、拠点に選んだのはなぜか新宿の繁華街にある定時制高校。そこに理科教師として赴任した彼が、年齢も国籍も異なる生徒たちの中で最初に接点を持ったのが廃棄物回収の会社で働きながら学校に通う柳田だった。

 いつものように生徒たちからテストの答案を受け取った藤竹は、柳田が文章問題に一切手をつけていないことに疑問を持つ。だが、柳田は暗算が得意で計算問題は満点。白紙回答だった文章問題も藤竹が声に出して読み上げれば、すぐ解を導き出せる内容だった。定時制高校に入ったのも自動車免許の学科試験に突破するためだったが、1年経っても教本をまともに読めないという柳田の話も総合し、藤竹はディスレクシアの可能性を本人に告げる。

 ディスレクシアとは、文章の読み書きに困難がある学習障害の一種。知的発達に遅れはなく情報の中身は理解できるため、周りも気づかないことが多い上に、まだまだ認知度が低い。そのため、大人になっても理由がわからないまま苦しんでいる人も多いのだ。柳田もそのせいで周りから散々馬鹿にされ、努力が足りないと言われてきた。そうじゃないと誰かに教えてもらって、楽になる人もいるだろう。だけど、柳田は違った。だって、彼は子供の頃、父親に無慈悲にも捨てられてしまったロボットのおもちゃとは違うことを証明しようとしてきたのだから。自動車免許を取得して仕事の幅を広げ、自分を馬鹿にしてきた人間を見返そうと努力してきたのだ。

 しかし、いくら頑張っても思うような結果が出ず、諦めたそのときに藤竹からディスレクシアの可能性を告げられ、最初から“不良品”だったことを突きつけられたような気持ちになったのではないか。それに気づけず無駄にしてきた月日を思い、行き場のない怒りと悲しみを藤竹にぶつける柳田。それに対してどうしていいかわからず狼狽える窪田の演技が印象的で、藤竹がまだ教師としては未熟であることを示していた。

 飄々として心のうちは見えづらいが、全身から好奇心が溢れ出す少年のような雰囲気もあり、教師っぽさは皆無な藤竹。だけど、そんな彼だからこそ、普通の教師にはできないことがある。それは、相手の心奥深くに眠る小さな探究心に気づき、知りたい答えを導き出すための手立てを与えること。

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