吉川晃司が体現する“孤高の武神” 『キングダム』龐煖役が成立した理由はルーツにあり?
“最強”ともいわれる将軍が登場したのだから、当然といえば当然だろう。しかしこれは、実写化された『キングダム』の世界観を信じる観客の存在があってこそ成立するものだ。たとえそこまで強そうに見えなくとも、自らを「武神」だという男が現れれば“最強”だと見なしてしまう。これは「天下の大将軍」と称される王騎に関してもいえること。たとえそう見えなかったとしても、私たち観客が“最強”なのだと信じ込めば(思い込めば)、誰だって強者になれてしまう。
しかし、大沢は誰もが圧倒されるような王騎像を立ち上げてきた。すでにあのような存在が本作にいるかぎり、もうハッタリは通用しない。ホンモノが登場しなくては、私たちは満足できない状態になっている。シリーズが続けば続くほど、観客が求めるハードルは上がるだろう。そのような状況の中で現れたのが“龐煖=吉川晃司”であり、彼もまた私たちの期待を遥かに上回ってきたのだ。
もともと恵まれた体格の持ち主であり、日常的に鍛えていることで知られている吉川だが、大沢と同じくハードな増量をしてビルドアップ。文字通りの大きな身体がスクリーンに立ち現れた。しかし、これまた大沢と同じで、ただ見た目を大きくするだけでは足りない。まったく足りない。その精神までもが強大なものでなければ、真の意味での武将としての大きさを私たちが体感するところまでは至らないだろう。
大沢が演じる王騎が多くの部下を抱える「天下の大将軍」であるのに対し、吉川が演じる龐煖は「武神」という孤高の存在である。彼が他者と交わるのは、“武”を介してのみ。吉川の発する声のトーンは低くぼそぼそとしていて、聞き取りやすいとはいえない。他者に何かを伝えようとしているとはあまり思えない。龐煖を龐煖たらしめるのはその強さだけだ。しかもセリフ回しにも独特のテンポやリズムが感じられる。このあたりに、俳優・吉川晃司が孤高の「武神」を体現しようとしている姿勢が表れているだろう。
そして“龐煖=吉川晃司”が成立した最大のカギは吉川のルーツにあると思う。彼は「俳優」である以前に「ロックミュージシャン」なのだ。しかも、既存のイメージなどから解き放たれた、それこそ孤高の存在。俳優業におけるキャリアも申し分のないものを築いているが、やはりアイデンティティは「ロックミュージシャン」であるに違いない。『キングダム』に登場する俳優たちの中で、彼だけが圧倒的に異なる文脈を背負って立っている。
敵でありながら、龐煖には魅せられるーー。それは吉川晃司という孤高の存在が、その肉体と精神をかけて体現しようとしたからなのだろう。彼の存在が次作のハードルをさらに上げた。
■公開情報
『キングダム 大将軍の帰還』
全国公開中
出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、玉木宏、佐藤浩市、小栗旬、吉川晃司、大沢たかおほか
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉・原泰久
音楽:やまだ豊
主題歌:ONE OK ROCK 「Delusion:All」(Fueled By Ramen / Warner Music Japan)
原作:原泰久『キングダム』(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
配給:東宝
©︎原泰久/集英社 ©︎2024映画「キングダム」製作委員会
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