『虎に翼』寅子と優未の間にできた“しこり” 猪爪家の子どもたちが体現する“家族の在り方”

『虎に翼』寅子と優未の間にできた“しこり”

 猪爪家では、「補いあって生きていく」というマインドが深く根付いている。それは寅子と花江の関係性だけでなく、子どもたちにも受け継がれているはずだ。むしろ、花江が家事の「手抜き」をさせてほしいと頼んだ時も、子どもたちは率先して彼女を手伝っていた。できないことは助け合う。そういう姿勢こそが、猪爪家らしさを象徴しているように思える。

 ただし、現在の猪爪家には新たな問題が浮上している。優未の寂しさや諦めを真に理解しているのが、実母の寅子ではなく、花江や直明(三山凌輝)といった他の家族メンバーであるという側面だ。ここに、寅子が以前栄二(中本ユリス)に向けて発した「両親にこだわる必要はない」という言葉が、皮肉にも自身に跳ね返ってくるような状況が生まれている。

 栄二は、寅子が裕司とフランス人の妻・ルイーズ(太田緑ロランス)の離婚調停を担当することになった際に出会った少年である。窃盗事件を起こし、両親から見放されそうな栄二の姿は、かつて両親に虐待され、行き場を失っていた道男(和田庵)の姿を思い浮かべた視聴者もいたのではないか。

 道男と栄二のケースのように、実の親以外の人物が心の拠り所となることで救われる可能性もあるだろう。しかし、寅子と優未の関係は本質的に異なる。互いを深く愛し合いながらも、現実的な制約から親子の絆が薄れつつあるという、より複雑な状況だ。ここでは、「両親以外に頼る」という解決策が、必ずしも最適とは限らない。

 結果として、寅子が直面しているのは時代を超えて存在し続ける「仕事と家庭(母親)の両立」という、“古くて新しい課題”なのではないか。女性の社会進出とキャリア構築の機会が増えた現代においても、母親としての役割への社会的期待は依然として強い。

 寅子と花江が、互いを補いながらそれぞれの役割を果たし、子どもたちもそれを理解し協力する現在の猪爪家の姿は、ある意味では現代らしい家族像を体現しているとも言える。それでも一つの命を育てている以上、どんなに仕事を頑張っていても「母親であること」から派生する責任は重くのしかかる。

 寅子は、このような現代社会にも通じるジレンマにどのように向き合い、乗り越えていくのだろうか。現代を生きる一人の女性として、寅子の選択には大いに興味がある。彼女の姿を通して、私たちは“家族の在り方”について、改めて深く考える機会を得られるはずだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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