『燕は戻ってこない』最終話の後も物語は続いていく 石橋静河が“飛び立つ”結末に寄せて
『燕は戻ってこない』というタイトルは、リキの叔母・佳子(富田靖子)の家にある、燕が飛び立った後の巣のエピソードを思い起こさせる。近所の「まだ結婚していない人」の噂話を趣味とし、独身である自らを「間に合わなかった」と位置づけ、リキに「まだ間に合う」と自由になるための結婚を勧める佳子の人生が、本作にはタイトル含め、静かに横たわっている。彼女の哀しみは、「結婚できなかった」ことではなく、町で見かける「人並みの幸せ」こそ自分の幸せだと思い込んだことだ。「これだけ人間がいる」のだから、幸せも「いろんな形があって当たり前」であるにもかかわらず、彼女はそれに気づけなかった。
でも、そんな佳子のような人は、閉鎖的な田舎町にたくさんいることだろうこともよくわかる。リキもまた、「人並みの幸せ」を欲して、代理出産という生殖医療ビジネスに安易に手を出した。でもそれは、第7話でリキの家を訪ねた千味子(黒木瞳)が後に悠子に言ったように、「甘ったれで何の努力もしない。努力してこなかったことを生まれのせいにしてる。挙句の果てに自分の身体を売って、大金をせしめようとしてる」と言われても否定できないことでもあった。
それでも彼女は、この代理出産ビジネスとそれに対する葛藤を経て出会った人々との繋がりをしっかりと学びに変え、「人並みの幸せ」を求めず、「私は私でありたい」と望むようになった。だから彼女は、主が戻ってこない燕の巣ではなく、燕自身になれたのだ。思わずその後の物語を想像してしまう。りりこは笑うだろう。夫婦は怒り悲しむだろう。那覇に行ってダイキ(森崎ウィン)に会うのだろうか。どちらにせよ、「大石ぐら」の人生は、苦労が多くても面白そうな気がする。
■配信情報
ドラマ10『燕は戻ってこない』(全10回)
NHK+、NHKオンデマンドにて配信中
出演:石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀、黒木瞳、森崎ウィン、伊藤万理華、朴璐美、富田靖子、戸次重幸ほか
原作:桐野夏生
脚本:長田育恵
音楽:Evan Call
制作統括:清水拓哉、磯智明
プロデューサー:板垣麻衣子、大越大士
演出:田中健二、山戸結希、北野隆
写真提供=NHK