タイ青春映画『ふたごのユーとミー』の輝くような美しさ 傑出した作品になった理由とは?

『ふたごのユーとミー』なぜ傑出した作品に?

 そしてもう一つの軸となるのは、恋愛要素だ。2人の前に現れるマークという爽やかな少年にユーは強く惹かれ、これまでの双子だけの濃密な関係に亀裂が走るのである。ミーは嫉妬のような激しい感情を抱いて不機嫌になってしまうのだが、それが果たしてマークへの恋愛感情なのか、ユーを失いそうになる危機感なのか、自分でも判然としない。このような言葉にできないミーの曖昧な思いや、奔放で周囲の人を惹きつけるミーに複雑な感情をおぼえるユーの思いを、ティティヤー・ジラポーンシンは演じ分けている。

 マークを演じるアントニー・ブィサレーも、本作で映画初出演を果たした。ベルギー人の父とタイ人の母を持つ彼は、タイ語以外に3つの言語を習得しているマルチリンガルで、ジラポーンシン同様に国際的な活躍が期待され、タイの新時代を担う俳優と見られる一人である。

 これまで映画では幾度となく、親しい2人が1人の人物に惹かれることで関係性が危うくなってしまう三角関係が描かれてきた。それを代表するのが、フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(1962年)であり、ジャン=リュック・ゴダール監督の『はなればなれに』(1964年)であるだろう。当人にとっては深刻な事態だが、どこかコメディ風でふわふわとした軽やかな印象をも与える、この種の作品の特徴は、日本の少女漫画の雰囲気とも接続されているところがある。

 意中の人の目を8秒間見つめようとする作戦や、気持ちを確かめるために双子が密かにスイッチするなど、少女たちのたわいのない計画と、それにいちいち翻弄されてしまう少年の姿は、まさに3人の閉じた世界で展開されるからこその、軽妙さに溢れている。より近い年代の作品でいえば、『藍色夏恋』(2002年)や『花とアリス』(2004年)などアジアの作品もまた、その特徴に当てはまる。三角関係といえば、かつてはヒロイン1人に男性が2人という構図の印象が強かったが、女性目線での逆パターンが同程度に見られるようになったのも、時代の流れによる変化への対応だといえよう。

 このように本作の特徴にフォーカスしていくと、過去の時代を舞台にしながら、青春映画、恋愛映画の定型を描き、既存の作品が描いてきた要素を貪欲にとり入れながらも、あくまで現在の感覚を焼き付けようという、相反する動きが同時におこなわれているということが理解できる。それが、「Y2K問題」が取り沙汰されていた「ミレニアム」という、時代の転換点に関連づけられているところが、軽やかな展開を描きながらも、本作からただならぬものを感じる理由なのではないか。三角関係の閉じた世界を囲み、大人の世界や大きな時代の流れが背後で常に動いていくのだ。

 そして、ここでの転換点は、もちろんユー&ミーの人生の岐路にも重ねられている。人生はさまざまものを取捨して、新しい場所に踏み出そうとするからこそ、成長があり価値があるといえる。そして変化があるからこそ、過ぎ去った時代が美しい瞬間だったと思い返すこともできるのである。本作『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』は、まさにこの結節となる一瞬を描いたことで、人生が強く輝く一瞬を映画のなかに封じ込めることに成功したといえるのではないだろうか。

■公開情報
『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』
6月28日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国公開
出演:ティティヤー・ジラポーンシン 、アントニー・ブィサレー
監督:ワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワット
プロデュース:バンジョン・ピサンタナクーン
配給:リアリーライクフィルムズ
後援:タイ王国大使館、タイ国政府観光庁
2023年/タイ映画/タイ語/122分/1.85:1/5.1ch/DCP & Blu-ray/字幕翻訳 : 宮崎香奈子/字幕監修 : 高杉美和/英題:You & Me & Me
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公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/futago

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