木場勝己が『虎に翼』に与える“緊張感” 演劇界の重鎮として磨き上げた芝居力

木場勝己が『虎に翼』に与える“緊張感”

 初登場を果たした第47話のシーンはごくかぎられたものだったが、それでも、彼がただならぬ者だということを誰もが瞬時に理解したはず。表情はにこやかだが、瞳の奥は笑っていない。その声は柔らかく軽やかだが、安易に触れると深い傷を負うことになりそう(いつでも斬ってきそうな雰囲気がある……)。一見、穏やかな好人物に思えるが、彼は間違いなく厳しい人物なのだろう。帝大教授にして民法改正審議会の委員という“肩書き”以上に、神保がいかなる人物であるのかを木場の振る舞いは物語る。そこにはこのキャラクターのバックグラウンドが垣間見えるのだ。

 あのほんの短いシーンの中のかぎられたセリフだけで自身の演じるキャラクターを印象付け、立ち位置まで示してみせるさまには、「さすが……すげえ……」と唸るばかりだ。演劇の世界で俳優活動をスタートさせた木場は、今日に至るまで第一線に立ち、その技の研鑽を続けてきた。シェイクスピアやチェーホフといった世界的なクラシック作品への出演はもちろんのこと、唐十郎の『盲導犬』や井上ひさしの『天保十二年のシェイクスピア』、三島由紀夫の『サド公爵夫人』などなど、現代演劇へとつながる日本の名作たちに蜷川幸雄らなどと挑んできた。まさに演劇界の“重鎮”ともいえる存在。2024年の秋には気鋭の演出家・藤田俊太郎とタッグを組み、『リア王の悲劇』でタイトルロールを務めることになっている。

 あまり演劇に馴染みのない方からすれば、かつては『3年B組金八先生』シリーズ(TBS系)の校長役、最近だと映画『ゴールデンカムイ』の永倉新八役で広く知られているのではないだろうか。後者では物語のラストに顔を見せたばかりであり、続編での活躍に期待が高まるというもの。名だたる俳優たちが永倉新八を演じてきたが、このマンガを原作とした非常にフィクショナルな作品で、木場はどんなキャラクターを立ち上げるのか。

 ともあれ、いまは『虎に翼』である。大小高低と声を自在に操る麗しいセリフ回しはもちろん、そのキャリアに裏打ちされた技を堪能したい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜~金曜8:00~8:15、(再放送)毎週月曜~金曜12:45~13:00
BSプレミアム:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜8:15~9:30
BS4K:毎週月曜~金曜7:30~7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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