伊藤沙莉が歌う「モンパパ」に込められているものとは? 『虎に翼』が願う“民衆の力”

『虎に翼』「モンパパ」をなぜ歌う?

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを私は心から願います」

 寅子(伊藤沙莉)は『虎に翼』(NHK総合)第30話の祝賀会でこうぶち上げた。高等試験に合格し、日本ではじめての女性弁護士になった寅子。試験に受かった女性は3人。寅子のほかに、1年先輩の久保田(小林涼子)と中山(安藤輪子)だ。

 つまり、一緒に学んできた同級生は寅子以外、ひとりも受かっていない。涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)は受験を諦め、よね(土居志央梨)は口述試験で落ちた。

 香淑は日本と朝鮮の関係から急遽朝鮮に戻ることになり、涼子は芸者と駆け落ちした父(中村育二)に代わって家を守るため結婚することになり、梅子は夫(飯田基祐)に離婚を切り出され、三男・光三郎(石塚陸翔)と共に家を出た。

 よねは、口述試験で、男装を「トンチキな格好」と言われ、反論したことが落ちた原因のひとつと考えられる。国の問題、結婚や離婚、服装など、本人の能力とは無関係な要因で夢が叶わない。寅子だって肝心の試験のときに生理が早く来て不本意な思いをした。

 桂場(松山ケンイチ)は女性と男性が同じ成績だったら男性をとると淡々と語る。女性は男性と対等ではなく凌駕したときはじめて対等になれるという過酷で不公平な状況なのだ。

「女ってだけでできないことばっかり」
「もともとの法律が私たちを虐げているのですから」

 それに寅子は怒りを感じる。「わたしたち、すごく怒っているんです」と寅子は祝賀会に集まった男たちの前ではっきり言う。

「志半ばで諦めた友、そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかった御婦人方がいることを私は知っているのですから」

 しかし、この祝賀会は見事なくらい男性たちで埋め尽くされている。女性がいっぱいいて盛り上がる、あるいは男女が半々であるべきなのに。しかも、寅子の発言に白けた記者たちは新聞でとりあげない(竹中(高橋努)を除いて)。

 寅子はここまで来るまでに何度も「地獄」という言葉を使い、厳しい状況を覚悟していたけれど、本当の地獄がいよいよ見えてきたかのようだ。それは、共に学んだ優秀な仲間たちといっしょに法の道に進むことが阻まれた地獄であった。

 頑張って勉強して合格したのに、たどりついた景色は思っていたものと違っていた。それは、最後に5人(女中の玉(羽瀬川なぎ)いれて6人)で見た海が、どんよりした曇天の空の下だったことと重なっている。だがそこで香淑は、いつも思いもよらない方向に流れていったけれど、結果的にはいい方向にいったと前向きだった。

 こんなに空と海がどんより灰色なのは、令和のいまも、当時よりはマシにしても、まだまだ地獄が続いているからだろう。ヒロインが夢を叶えた、良かった!ではなく、気を引き締めていかないといけないという警告のように思えた。

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