プロパガンダに満ちた講習の様子が アグニエシュカ・ホランド『人間の境界』本編映像公開

『人間の境界』本編映像

 5月3日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開される映画『人間の境界』の本編映像が公開された。

 本作は、2021年にベラルーシがEUの混乱を狙いポーランド国境に大量の難民を移送した事態を受け、ポーランドとベラルーシの国境で「人間の兵器」として扱われる難民家族の過酷な運命を描いた群像劇。『ソハの地下水道』『太陽と月に背いて』『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』などのアグニエシュカ・ホランドが監督を務めた。

映画『人間の境界』本編映像

 公開されたのは、隣国から送り込まれてくる難民を敵視する、ポーランド国境警備隊によるプロパガンダに満ちた講習の様子を捉えた本編映像。

 2021年、ベラルーシ政府の策略により大勢の難民がポーランド国境へと送り込まれるが、ポーランドの国境警備隊は非人道的な仕打ちのすえ彼らをベラルーシへと押し戻し、ベラルーシも再びポーランドへと戻す……と両国が難民を押し付け合う事態となっていた。物語の中心となるシリア人難民家族に加えて、この国境の森に関わる支援活動家、国境警備隊の青年、地元住民など複数の視点から描き出していく本作において、EUへの亡命を望む難民を激しく敵視するポーランド国境警備隊の視点が伝わるシーンだ。国境警備隊に配属された兵士たちが上官から講習を受けるが、上官は「やつらは平気で恩を仇で返す。リアルな脅威だ」と切り出す。彼によると、これは典型的なハイブリッド戦で、難民はロシア大統領プーチンとベラルーシ大統領ルカシェンコによる武器だというのだ。上官は「死体は出すな。見つけた死体は消し去れ」と言い放つが、それは“死体がポーランド側になければいい”ということを意味していた。

 落ち着きなくスマホをいじる若き隊員ヤン(トマシュ・ヴウォソク)は、妻の出産を控え、彼自身も仕事に集中できない日々を送っていた。そんな彼が、物語を通じてどんな変化を見せることになるのか。

 ホランド監督は自身のコネクションを使ってこの事態に実際に関わった国境警備隊員にも取材を敢行。警備隊による難民への容赦ない対応や、それが兵士自身に与える影響など入念なリサーチを重ねたという。事態を受けてベラルーシ国境付近の森を立ち入り禁止にした当時のポーランド政府は、政府が隠そうとした“不都合な真実”の告発を試みた本作を激しく非難。現役の大臣が非難声明を発表し、公開劇場に対して上映前に「この映画は事実と異なる」という政府作成のPR動画を流すよう命じるなど異例の攻撃を仕掛ける事態へと発展。ホランド監督は、「基本的には、恐れていません。以前も恐れていませんでしたから、今も恐れる理由はありません。物議をかもすようなテーマについて明確な立場を示したり発言したりすることは、大きなリスクを伴います。ですが私は、痛みを伴うような難しい選択が強いられる重要な問題や、時には解決不可能な問題に取り組むために闘わないのであれば、芸術を作ることに意味はないと感じるのです」と、一貫して変わらぬ制作スタイルを語っている。

■公開情報
『人間の境界』
5月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
監督:アグニエシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル、マヤ・オスタシェフスカ
配給:トランスフォーマー
2023年/ポーランド、フランス、チェコ、ベルギー/ポーランド語、アラビア語、英語、フランス語/152分/G/ビスタ/カラー・モノクロ/5.1ch/原題:Zielona Granica/英題:Green Border/日本語字幕:額賀深雪
©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/  
公式X(旧Twitter):@ningen_kyoukai

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