『秒速5センチメートル』に僕らは何度だって傷つく 在りし日の“繊細な”新海誠を想う

 デビュー作『ほしのこえ』(2002年)以来、『雲のむこう、約束の場所』(2004年)、今作、『言の葉の庭』(2013年)と、新海誠は「あまりにも脆く、そーっと揺らさないように、握る手に力を入れ過ぎないように、慎重に扱わなければすぐに壊れてしまうような」、そんな繊細な作品を作り続けてきた(※2011年の『星を追う子ども』という作品もあるのだが、この作品のみ毛色が違い過ぎるので、ここでは触れない)。

 それらの作品群は、かさぶたを剥がしたいタイプのコアなファンは生み続けただろうが、万人に受けるとは言い難かった。

 だから、2016年にガラッと作風の変わった『君の名は。』を発表した時は、「あのいつも泣いてた誠ちゃんが逞しくなって……」と、親戚のおばちゃんのような感想を抱いたものだ。

 「男女間のどうしようもない、物理的、あるいは精神的距離のジレンマ」という通底するテーマは変わらないものの、主要キャラたちはやたらアクティブになっていた。今までの図書室や保健室の似合う少年少女たちは、校庭をかけ回りそうなほどに元気になっていた。

「君の名は。」予告2

 この『君の名は。』のラストシーンでも、主人公の男女は東京の街で偶然すれ違う。涙を浮かべて再会を喜ぶふたりを観て、貴樹と明里はなぜこうなれなかったのかと思う。

 作風を変えてからの新海誠は、その後も『天気の子』(2019年)、『すずめの戸締まり』(2022年)と大ヒットを連発し、日本を代表するアニメーション監督となった。

 でも、これだけ商業的に文句のない結果を出したのだ。そろそろまた、以前の作風の映画も観てみたいと思う。

 作家性が強く、繊細で、切なく悲しい作品を。

 かさぶたを剝がしたくなるような、美しい作品を。

■公開情報
『秒速5センチメートル』
公開中
原作・脚本・監督:新海誠
キャラクターデザイン・作画監督:西村貴世
美術:丹治匠、馬島亮子、新海誠
音楽:天門
主題歌:山崎まさよし「One more time, One more chance」
声の出演:遠野貴樹(タカキ):声・水橋研二、篠原明里(アカリ):声・近藤好美/尾上綾華、澄田花苗(カナエ):声・花村怜美ほか
提供:CoMix Wave Films
配給:Filmarks
© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

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