『厨房のありす』が示した“私たちが生きるヒント” 「ASDだから」を乗り越える愛

『厨房のありす』が示した“生きるヒント”

 ありすが今まで「ASDだから」と諦めていた壁をたくさん乗り越えていくのを観るのも楽しかった。たとえばありすは倖生と出会ったことで「人を好きになるとはどういうことか」という、“難問”に直面した。ありすは自分が人の気持ちを読み取ることを苦手とするASDだから「好き」がわからないと思っていたようだが、それとは関係なく誰にとっても「人を好きになること」ははっきりと言葉で表しづらいものではないだろうか。

 実際、ありすが“恋の悩み”を相談した和紗の家では、6歳の銀之助(湯本晴)は「ここ(心臓のあたり)が熱くなって鼻血が出る!」と言っていたし、9歳の虎之助(三浦綺羅)はよそよそしくなってしまうようだし、34歳の金之助(大東駿介)は走り込みをしたくなるらしい。ありすは“恋の悩み”を多くの人、時にはその相手である倖生本人にまでにぶつけた。ありすは知りたい衝動が抑えられなかっただけなのだろうが、その行動が、誰かを好きになる気持ちや愛にはいろいろな形があることを教えてくれた。

 だからこそ「自分の身の回りでの出来事すべてを倖生さんには必ず話したい」とありすが「好き」の気持ちを自分の言葉で表現できた時、その成長に拍手を送りたくなった。ありすは今後も生きづらさを感じることがあるだろう。でも、人の気持ちが察せなくても、こうして理解はできるという経験は大きな糧になるに違いない。試行錯誤して自らの力で苦手を乗り越えたありすの姿は、ASDを抱えているかどうかにかかわらず、私たちにも何か生きるヒントを与えてくれたような気がする。

『厨房のありす』は私たちを優しく包む 他人に迷惑をかけながら生きることに与える許し

田舎から上京してきたばかりの頃、驚いたことがある。人身事故による電車の遅延に巻き込まれた大学の友人が「死ぬのは自由だけど、他人に…

 さらに自分が心護(大森南朋)をはじめとして、たくさんの人から守られている、つまり愛されていることを知ったありすは、相手に同じくらい愛を返せるようになろうと決心する。そんなまっすぐなありすに引っ張られるように、最初はぶっきらぼうで何かを諦めていたような倖生も優しく、温かい人間へと変化していった。

 今、2人は励まし合いながら、ありすの母親が亡くなった火事や倖生の父親が犯人とされた横領事件の謎を解き明かし、真実と向き合おうとしている。もしかしたら真実を知ることでありすは傷つくかもしれない。だけどありすのそばにはずっと見守ってくれていた和紗や一緒に乗り越えると決めた倖生がいる。最後にはみんなでおいしいごはんを食べてほしいと願いつつ、ありすの頑張りを応援したい。

■放送情報
『厨房のありす』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~23:25放送
出演:門脇麦、永瀬廉、前田敦子、大東俊介、北大路欣也(特別出演)、皆川猿時、萩原聖人、木村多江、大森南朋
脚本:玉田真也
音楽:横山克
演出:佐久間紀佳、鈴木勇馬
プロデューサー:鈴間広枝、諸田景子、松山雅則
チーフプロデューサー:三上絵里子
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
©日テレ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/alice/
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