『ブギウギ』最終幕に向けて駆け足気味? SNS時代の“伏線”多用を考える

『ブギウギ』最終幕に向けて駆け足気味?

 物語を創作するにあたって伏線という仕掛けを作るのはさほど珍しいことではない。が、ドラマでは近年、なんでもかんでも「伏線」とSNSで大騒ぎになるため、本来の「伏線」の意味とはズレた「後出し」のようなことが増えている。それが視聴者を喜ばせたい一心だと好意的に解釈しても、もはやインフレ状態だ。今回の懐中時計はそうなってしまった気がした。それよりも、注目したいのは、梅吉とスズ子とキヌの物語を繋いでいる、もっと重要なものがある。ツヤである。死ぬ間際に自分で「性格悪いやろ。醜いやろ」と自覚していた彼女の執念だ。

 キヌとスズ子の確執は、ツヤが作りあげたものだ。赤ん坊を育てられないキヌからスズ子を預かって、そのまま愛情が深まり、連絡を断って自分の子にしてしまったことをツヤはスズ子に黙っていて、自分が死んでもスズ子に言わないでほしいと梅吉に頼んだ。

 結局、スズ子は、ツヤと梅吉が実の親ではなかったことを知ってしまうが、ツヤの私情で、認識が歪められていたことには気づかないままなのである。ドラマではここを追求していないのだが、考えるとなんだか身震いがする。ツヤによって運命が変えられてしまった実の母娘がここにいるのだ。

 だが、梅吉とスズ子がお互い、血の繋がりがないことを知っていても知らないふりしていたことはまぎれもない美談だし、梅吉が最後までツヤの業を守り抜いたことも、凄まじい愛だと感じる。そもそもツヤが自分で「醜い」と自覚していた自分本位の深い欲望だって、考えてみたら、スズ子が真相を知ったら傷つくかもしれないという思いやりでもあるだろう。

 誰だって自分が1番大事で、自分のことでせいいっぱい。それでも不器用ながらに誰かを思いやることだってある。ツヤの愛憎入り交じったドロドロの思いは、梅吉の死とともに墓場に埋められて、もう誰も知ることはない。人間ってそういうもので、世界では、全部が全部、丸く収まらない。なんの解決もしないこともしばしばだし、シロクロつけずにこういうふうに水に流していくような、誰が悪いわけでもないのだというまなざしを貫くことは意義深いともいえるだろう。シロクロつけようとすると傷つけあってしまうから。

 そこはがんばって受け入れたいのだが、愛子が亀をとても可愛がっていたので、亀を連れ帰ってほしかったと筆者は思った。亡くなった六郎(黒崎煌代)の形見として梅吉が大事にしていた、いわば花田家の魂・亀は香川に残し、いつでも戻って会えることにして、愛子には実母との関係性の象徴・懐中時計を託したという棲み分けはよく考え抜かれているとは思うが、亀と懐中時計と、ちょっと今週は欲張ってしまった感じがする。それもまた、どこか収まりの悪いことだって別に悪くないという『ブギウギ』節なのかもしれない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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