『最高の教師』はただの考察ミステリーじゃない “2周目”で見えてくる王道の学園ドラマ

『最高の教師』はただの考察系じゃない

 2023年7月期に日本テレビ系で放送された『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』のBlu-ray&DVDが2月21日に発売となった。すでに放送時に視聴している人にとっては、松岡茉優演じる主人公の九条里奈を校舎から突き落とした犯人が誰なのかというミステリーの部分が“1周目”の主な着目点であっただろう。その答えがわかった上で観る“2周目”は、いかに本作が現代の学園ドラマとして、高校生たちが抱える問題や課題に向き合った作品であるかに注目できるのではないだろうか。

 ドラマは鳳来高等学校の卒業式の日に、新校舎の吹き抜け廊下で生徒たちを眺めながら物思いに耽る3年D組の担任教師・九条(松岡茉優)が、教え子の誰かに突き落とされるシーンから幕を開ける。開始わずか数分で、主人公が命を落とす。それだけ聞くと随分とイレギュラーな学園ドラマにも思えるが、これが“タイムリープ”ものであると知れば実にオーソドックスな導入といえよう。

 死の淵に立った主人公が意図せずに過去に遡り、その先に起こりうる出来事を書き換えながら未来(本作においては過去に遡ることになるきっかけと一致するのだが)を変えようとする。従来の一般的なタイムリープ(=時間移動)作品であれば、過去を変えることで現在が不本意なかたちで変わってしまうタイムパラドックスを忌避することがひとつのポイントとなりうるわけだが、“未来を変える”という目的がある以上は積極的にタイムパラドックスを起こさなくてはならない。映画化もされた人気漫画『東京卍リベンジャーズ』など、昨今のタイムリープものにはこうした明確な目的が必要不可欠である。

 そうして九条は、ほぼ1年前の新学期を迎えた朝へと遡ることになる。教壇から見える30人の教え子たちのなかに、卒業式の日に自分を突き落とす誰かがいる。当然この時点で、その“誰か”のなかに殺意があるかはわからない。その誰かを見つけ出し、自分が殺される未来を回避するために九条が考えるのは、問題だらけだったこのクラスを変えていくことに他ならない。そこには“人が変われば未来が変わる”というある種の理想があり、同時に担任として1年間過ごしたなかで彼女にあった(学校内も然り、プライベートも然り)後悔を取り戻していくことにも繋がるのだ。

 いじめや家庭の問題、クラス内のヒエラルキーや周囲と馴染むことができない個性、同調圧力。各エピソードで九条は、生徒たちひとりひとりの問題に向き合いながら彼ら/彼女らの心を解きほぐしていく。それはまさに、『3年B組金八先生』(TBS系)や『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)、『ごくせん』(日本テレビ系)といった教師視点から“問題のあるクラス”を変えていく学園ドラマの王道ストーリーに他ならない。時代によって若者たちが関わる問題の種類はさまざまであるが、家族との関係や友人との関係、自分自身のこと、土台は概ね変わらない。その周囲を取り巻く環境が変化していたり、対処の方法は異なるかも知れないが、先に挙げた3作品がいま観ても色褪せない傑作であるように、本作で描かれるいくつものメッセージも2023年に限定されることはないだろう。

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