『ブギウギ』『らんまん』と“歴史もの”へと移りゆく朝ドラ ドラマ評論家座談会【後編】

2023年ドラマ座談会【後編】

2023年はドラマシーンの分岐点に?

ーー最後に2023年のドラマシーン全体に対する総評を教えてください。

成馬:2010年代後半は地上波のプライムタイムのドラマよりも配信のドラマの方が先鋭的かつ予算のかかった作品が多くて、いずれ地上波のドラマはNHKと深夜枠だけになっていくのではないかと思っていたんです。でも、今年は民放のドラマが盛り返してきて、生方美久を筆頭に新人を積極的に起用するようになってきている。逆にNetflixやディズニープラスといった配信ドラマは、坂元裕二や増本淳のような地上波のドラマを作っていた脚本家やプロデューサーを呼んできて豪華な作品を作ろうとしているけど、時間と予算をかけて丁寧に作っている分だけ、ドラマならではの時代と共振したライブ感に欠けるところがあって。配信作品のほうが若干保守的に見えるという逆転現象が起こりはじめている。

木俣:コロナ禍で一瞬休んだことで肩の力が抜けて、これまでの体制を整え直したのかもしれないですね。

成馬:あと、これも『silent』以降の流れだと思うのですが、ドラマの人気を測る指標が視聴率からTVerの再生回数に移ったことを実感した1年でした。ドラマ関係のニュースを読んでいると、TVerの再生回数ランキングの順位が書かれていることが増えていて、『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)のようにTVerで話題になって逆輸入的に本放送の視聴率が上がるケースも増えている。面白いのはSNSで考察や感想が多く呟かれている作品とTVerの再生回数が上位にある作品って必ずしも一致していないことで。『あなたがしてくれなくても』みたいな作品はSNSで話題にしにくいので、一人でこっそり観ている人が多かった。だからSNSで共有するのとは別の試聴形態が出てきているのかなぁと思いました。

木俣:成馬さんは民放が新人作家を積極的に登用しているとおっしゃるように、先日、TBS の福澤克雄さんに取材したら、若い作家を育てる義務があるとおっしゃってました。その一方で、「僕はいまはもう、大作家が全話書く時代ではないと思っていて。共同制作の良さは、集まった作家の数だけ人生経験があり、それぞれのキャラクターに個性とリアリティーが出ることだと思っています。ただ、それも、リーダーのビジョンがしっかりしていないと成立しない」という発言も印象に残っています。若い作家がほしいけれど、その作家、ひとりのセンスや問題意識では、多くの人が観るドラマは難しいと作り手は感じている。大衆向けの集合知的な企画色の強いエンタメと、作家性の強い人による、パイは小さくても強烈に誰かの心に響くものと二分していくのかなと。ただ、後者の場合、現代の日常という狭い世界になるので、内向きになっていくばかりという心配もあります。2024年は、スケールの大きなものが書ける作家の誕生にも期待したいし、ライターズルーム的なやり方で、海外に肩を並べられる作品が誕生することにも期待したいです。

藤原:成馬さん、木俣さんのお話が、今片っ端からメモしているぐらい勉強になることばかりで、私が語れるドラマ展望は特にないのですが(笑)。配信ドラマ含め、ドラマ作品がどんどん増えていく中で、ドラマの個性もまた多様化してきたなと思っていて。全ての世代、性別問わず皆が皆「これが傑作!」と口を揃えて言いたくなる作品がなくて、誰かにとっての傑作が、誰かにとっては全く刺さらないという現象は、当然と言えば当然なのですが、これまで以上にそのことを感じる部分が多かったのが2023年だったように思います。だからこそ面白いといいますか。世の中のトレンドに追われるだけではなく、私含めて、視聴者それぞれが、自分自身の感情がどう揺さぶられるかということを第一の指針として、ドラマと向き合っていく必要があるのではないかなと思います。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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