リアルサウンド映画部編集部6人が選ぶ、2023年公開・配信の映画TOP10
2022年12月の公開からロングヒットとなった『THE FIRST SLAM DUNK』を筆頭に、日本発の人気IPをハリウッドでアニメーション映画化した『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』、人気シリーズの劇場版第26弾『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』、宮﨑駿10年ぶりの長編監督作『君たちはどう生きるか』などのヒット作が生まれた2023年。ハリウッドでは、全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)によるストライキの決行、『ゴジラ-1.0』や『君たちはどう生きるか』など日本映画のヒットも記憶に新しい。そんな2023年に公開・配信された作品の中から、リアルサウンド映画部の編集部6人がトップ10作品を選出した。
宮川翔(編集長)
1. 『ザ・キラー』
2. 『マイ・エレメント』
3. 『aftersun/アフターサン』
4. 『TAR/ター』
5. 『星くずの片隅で』
6. 『あしたの少女』
7. 『テイラー・スウィフト THE ERAS TOUR』
8. 『Renaissance: A Film by Beyoncé』
9. 『午前4時にパリの夜は明ける』
10. 『ザ・クリエイター/創造者』
2023年は映画館で映画を観る意義を改めて考えさせられる1年だった。
Netflix映画ながら映画館で観るからこその音響設計にただただ驚いた『ザ・キラー』、長らくディズニープラスでの配信スルーが続いていたピクサーから飛び出した大傑作『マイ・エレメント』、“映画”というフォーマットそのものの価値観を変えるほどの圧倒的な臨場感とライブ感を味わわせてくれた『テイラー・スウィフト THE ERAS TOUR』『Renaissance: A Film by Beyoncé』。
香港の『星くずの片隅で』、韓国の『あしたの少女』、フランスの『午前4時にパリの夜は明ける』という名作が無事日本公開された喜びも噛み締めたい。
主人公の心情に心の底から共感し、2023年最も響いた『aftersun/アフターサン』は人生の1本になった。
そんな中、『TAR/ター』はまさにこの混迷する2023年に観るべき1本だった。
2024年はそういった作品が日本映画から出てくることに期待したい。
石井達也(副編集長)
1. 『フェイブルマンズ』
2. 『花腐し』
3. 『せかいのおきく』
4. 『TAR/ター』
5. 『PERFECT DAYS』
6. 『首』
7. 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
8. 『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』
9. 『君は放課後インソムニア』
10. 『怪物』
びっくりするぐらい心動かされた『フェイブルマンズ』。技術が発展し、手法が変化し続けたとしても、映画人口がどんどん減っていったとしても、「映画」というものがいつまでも作られ続けるであろうと思わせてくれたことに震えた。映画に携わる仕事をしたいと思った最初の気持ちを思い出させてくれた『花腐し』『せかいのおきく』『PERFECT DAYS』。鑑賞後に一番作品の中の人物に思いをはせた『TAR/ター』。『レジェンド&バタフライ』『どうする家康』で感じられなかった“戦国“を見せてくれた『首』。今は亡き愛犬の思い出とともに自分の中のMCUが一区切りついてしまった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』。いいスタッフ・キャストたちの揺るぎない思いが見えた気がして、自分自身の人生も呼び起こされた『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』『君は放課後インソムニア』。良くも悪くもいろんな人と語り合った『怪物』。
映画監督を描いた朝井リョウ著『スター』の主人公2人(2人の有能な後輩も)は、いずれもなりたかった自分が投影されているようで、でも絶対になれなかったこともわかるようで、辛く、悔しく、面白く、ものすごく、えぐられた。それでも彼らに共感できるような仕事をさせてもらえることを再確認できた喜びもあり、いまの自分に必要な言葉がちりばめられていた。
『スター』の中の言葉を借りるなら、ベスト10に挙げた作品は、そこに「心がある」映画だった。ドラマ・アニメの鑑賞数が増え、他編集部スタッフが上位に入れている作品も見逃しているのが恥ずかしい。映画の鑑賞数がこの数年で右肩下がりなのはつらいところなので、2024年は今年以上に自分にとっての“スター“作品にもっと出会えるように頑張ります。
花沢香里奈
1. 『帰れない山』
2. 『CLOSE/クロース』
3. 『エンドロールのつづき』
4. 『北極百貨店のコンシェルジュさん』
5. 『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』
6. 『マルセル 靴をはいた小さな貝』
7. 『aftersun/アフターサン』
8. 『BLUE GIANT』
9. 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
10. 『TAR/ター』
「ただ一つわかるのは、僕たちは優しくなるべきだ」。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の強烈な一言から始まった2023年は、折に触れて「優しさ」について考えた年だった。私たちは本当は優しくありたい。誰かの笑顔のため、幸せのために生きたい。怒りや余裕のなさで、しばしばそれを忘れてしまうだけで。
『帰れない山』と『CLOSE/クロース』は、どちらも男性同士の友情にフォーカスした物語だ。遠く離れた地から故郷にいる親友を想う『帰れない山』と、いつも一緒にいた幼なじみがクラスメイトにからかわれたことを機にすれ違っていく『CLOSE/クロース』は、さながらシングルのA面とB面のようだった。
仕事における“優しさ”を描いていたのは、『北極百貨店のコンシェルジュさん』。「倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使」(岡野大嗣)という短歌があるが、大切な人への贈り物を探す人々が百貨店に集まるとき、そこはわずかに天国なのかもしれない。
『aftersun/アフターサン』は、父が自分と同じ年齢だった頃の記憶をビデオテープの映像とともに回顧する。見えていたはずなのに、見逃してしまっていた父のSOSのサイン。未来と過去が一緒くたになった空間で、ありし日の父を抱きしめる主人公の姿に号泣してしまった。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、社会的成功を追い求めるなかで、徐々に“人間らしさ”を手放してしまった人の弱さを一人称視点で描く。人間が優しさを捨て、利己的な行動に走ってしまうのは、やはり弱さが原因なのだろうか。選外となったが、北アイルランドの小学校で行われている哲学の授業を切り取った『ぼくたちの哲学教室』もまた、そんな弱さを超えて、一歩を踏み出すための手がかりとなりそうな一作だった。