『REBEL MOON — パート1』は驚きの内容に 面白さは『スター・ウォーズ』続三部作以上?

『REBEL MOON』は驚きの内容に

 目を見張るのは、そこで描かれている反乱者たちや征服者の心情が真に迫っているところだ。とくに執行官の傲慢な態度や、彼の兵士たちの野卑で卑劣な行動は凄まじく、それが非常に粘着的に描かれているところが面白い。命を握られていることで農民たちは屈し、慈悲を乞い続けるしかない。しかし、武力で制圧している者たちは、農民たちを人間とも思っていない。

 これが強いリアリティを感じてしまうというのは、実際の歴史に類似の状況が少なくないからだ。最も本作の状況に近いと思えるのが、1930年代のウクライナだ。豊富な穀倉地帯があり「ヨーロッパの穀倉」と呼ばれていたウクライナは、ソビエト連邦に取り込まれていた時代、過剰に穀物を搾取されたために、深刻な食糧危機に陥り、数百万にものぼる死者を出すこととなったという。

 このソ連による歴史的な犯罪は、ナチスによるユダヤ人の虐殺「ホロコースト」に並ぶものとして、「ホロドモール」と名付けられている。この「ホロドモール」については、映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(歴史の醜い真実を描くサスペンス 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』に詰まった“信念”を読み解く)に詳細が描かれている。奇しくも、現在もロシアがウクライナを侵略し、爆撃などの軍事行動をおこなっている最中である。

 ミヒウ・ハウスマンらが演じる農民たちへの差別はもとより、アンソニー・ホプキンスが演じているロボットに対する差別の描写も苛烈だ。支配者の徹底した傲慢さ、残虐さを表す露骨な描写は、『スター・ウォーズ』シリーズではなかなか難しかったかもしれないし、『七人の侍』以上の表現がなされていると感じられる。この点では、どちらかというとドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の方に接近しているかもしれない。

 『スター・ウォーズ』続三部作は、オールドファンが観客の中心となっていて、より若い世代の琴線には触れづらいところがあったようだ。その意味では、若い世代にも大きな反響があった『ゲーム・オブ・スローンズ』は、現代の『スター・ウォーズ』の役割を果たしていると観ることができる。そう考えると、本作の過激なバランスは、時代に対応したものとなっているのではないか。

 『スター・ウォーズ』続三部作、とくに『エピソード7』は、旧三部作に心を躍らせた世代が、子ども時代の興奮や憧れを再現しようとして、同じようなものを繰り返して作ってしまったところに失敗がある。だが、ファンからの厳しいプレッシャーがあるわけではない本作は、そのような方向に引っ張られることなく、独自に表現したいものを追求しているところがある。その点で本作は、続三部作よりも映画作品として見るべきところが多いのである。

 本作に『スター・ウォーズ』の代替的な役割があるとすれば、他にも類似作品を作ることが可能かもしれない。例えば、『エピソード9』を降板することになったコリン・トレヴォロウ監督も、『スター・ウォーズ』の類似的内容の映画を撮ることができるかもしれないし、ジョージ・ルーカスの続三部作の構想に似通った類似作品があっても、もしかしたら良いのかもしれない。

 2024年4月に配信されるという2部作の後半『REBEL MOON — パート2:傷跡を刻む者』は、公開されている予告編を見る限り、『七人の侍』同様に、農民たちとともにレベルズが勇敢に兵士たちと戦う内容が主となりそうだ。そこでは、ジャイモン・フンスーやペ・ドゥナなど、キャストの活躍が本格的に楽しめそうだ。

■配信情報
『REBEL MOON — パート1:炎の子』
Netflixにて独占配信中
監督・脚本・製作・原案:ザック・スナイダー
出演:ソフィア・ブテラ、チャーリー・ハナム、ペ・ドゥナ、ジャイモン・フンスー、ミヒウ・ハウスマン、スタズ・ネア、レイ・フィッシャー、エド・スクライン、アンソニー・ホプキンス

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる