『いちばんすきな花』が一貫して伝えてくれたメッセージ 藤井風の主題歌「花」ともリンク

『すき花』が一貫して伝えてくれたメッセージ

「どっちでもいいんじゃない? 人それぞれだから」

 木曜劇場『いちばんすきな花』 (フジテレビ系)が一貫して伝えてくれたメッセージが、このセリフに集約されているように感じた。

 藤井風が歌う主題歌の「花」にあるように〈みんな儚い みんな尊い〉と、各々に思えることができたら……。「人それぞれの世界」で、ごく稀に「いちばんすきな人」を見つけることができたら……。この世界をもう少し穏やかに生きることができるような気がする。そんな希望で心の温度が上がった最終話だった。

分断と対立が起きる世界だから、出会える幸せがある

 男女の友情が成立する2人もいれば、そうではない2人もいる。結婚をしたらパートナーの名字に変わることに抵抗を持つ人もいれば、幸せに感じる人もいる。いわゆる「コレを贈っておけば間違いない」と言われるプレゼントをそのまま喜ぶ人もいれば、ブチギレる人も……。

 だって、人には当たり前に“好き嫌い“があるから。そして、その背景には人それぞれの価値観があるから。その価値観も、生きている時代や誰と過ごしているかでガラリと変わるもので、どれが正しいとか間違っていると決めることは難しいし、全てを理解することなんて到底不可能だ。もちろん、他人の権利を侵害しているものについては「間違い」と主張したいところだが、法律だってまたそのときどきで変わるもの。つくづく世の中に絶対などないと頭を抱えたくなる。

 だから、相手の「好き嫌い」と同じくらい、自分の「好き嫌い」を否定しなくてもいいと覚悟を決めることも時には必要だ。「気にするな」と言われても気になってしまうのは仕方のないことだと、ある意味で割り切って自分と付き合っていくしかない。誰かを傷つけないようにと気を使うことは大切だけど、そうして愛想笑いばかりをしていては、いつか自分の心が死んでしまうから。

 誤解も、固定観念も、すれ違いも、避けられない。この世界から「分断」と「対立」が消えることはない。でも、そんな絶望したくなる世界だからこそ、「あなたと価値観を理解したい」と言ってくれる人と出会えることに幸せを感じられるのではないだろうか。

いつもの居場所がなくなっても、席はなくならない

 ゆくえ(多部未華子)の「ちょっと住みたいです」という提案から、引っ越しまでの期間限定で始まった4人の生活。それはずっと住みたくなるような居心地の良さだった。それぞれが「嫌い」を理解し、「好き」を強要しない空間。それほど想い合っている4人でも、ちょっとしたピリつきは起きる。

 夜々(今田美桜)の着るTシャツが、紅葉(神尾楓珠)のイラストを盗用したものだと発覚し、気まずい空気が流れる。知らなかったとはいえ犯罪に加担したと罪悪感にさいなまれる夜々。そんな夜々に、紅葉は友達だから買ったのではなく、純粋にイラストを気に入って購入してくれたことはむしろ嬉しいと告げる。

 もちろんイラストが盗用されたことそのものは、喜ばしい話ではない。けれど、紅葉の中にはどこか自分の手掛けたイラストが起用されている本を4人が買ってくれるのは、自分と友達だからなのではないかという思いがあった。だから夜々が自分と知り合う前に購入したというTシャツは、むしろ紅葉にとって自信を持つきっかけになったように見えた。

 居場所を失うまいとするほど、波風を立てずになんとかしたくなってしまう。けれど、本当に自分を大切にしてくれる人であれば、たとえ少しの気まずさが伴ったとしても心の声を聞かせてほしいと願うもの。それでも簡単に「わかり合える」とは言えない。けれど、「あなたをわかりたい」という気持ちそのものが、“あなたの席“を作る。たとえ、4人で囲むあのダイニングテーブルがなくなったとしても、それぞれの席がなくならないように。

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