福澤克雄監督は『VIVANT』で何を目指したのか 「低予算のドラマを量産する時代は……」
福澤克雄監督が考える“TBSドラマ”しさとは?
――改めて、堺雅人さんの魅力をお聞かせください。
福澤:乃木はやっぱり、このドラマのなかで一番難しい役です。ふたつの人格を演じ分けるのは大変だろうし、撮影にも2倍の労力がかかります。Fをやったり乃木をやったり、いったりきたりで、大変だったと思います。
――ほんとうに豪華キャストでした。なぜ、こんなにも豪華なキャストを集めることができたのでしょうか?
福澤:ノゴーン・ベキという、ちょっと胡散臭い、謎めいたキャラを、役所さんが演じてくれたおかげで、誰もがこの世界観にすっと入れたと思うので、助かりました。よくぞ出演してくださいました。役所さんに限らず、これまで、僕のドラマに出てくれた、そのつきあいということではなく、皆さん、日本ドラマは外に出ていかないといけないという危機感を持っていたからだと思います。これまでの日本は内向きで、それでどうにかやれてきたけれど、そろそろ外に出ていかないといけないという気持ちが皆さんにもあったと思うんですよ。それで、今回、外向けに作っていきますという企画に、みんな賛同してくださった。そういう気がしますね。
――ここからは、 改めて『VIVANT』の挑戦について伺います。チーム制の台本づくりでは何か新たな発見がありましたか?
福澤:チーム体制にした理由のひとつは、脚本家を育てるという義務です。まだ一本立ちしていない作家を6人くらい集めて、中から3人選抜して。いわゆる共同制作のライターズ・ルーム的というよりは、僕が絵を思い浮かべて話したことを、作家たちが台本にして、最終的には八津弘幸が見るシステムで作りました。僕はいまはもう、大作家が全話書く時代ではないと思っていて。共同制作の良さは、集まった作家の数だけ人生経験があり、それぞれのキャラクターに個性とリアリティーが出ることだと思っています。ただ、それも、リーダーのビジョンがしっかりしていないと成立しない。昔、橋本忍先生に聞いた話で、黒澤明監督や、菊島隆三さんが脚本を共同制作したとき、黒澤監督がリーダーではなく、脚本家のなかにリーダーがいて、その人が最終的にイエス、ノーをジャッジしていたそうです。
――バラエティー豊かな話だったのは、結果的に福澤さんのビジョンだったと。
福澤:僕が工夫したのは、興味の持続をどうするかです。例えば、野崎がチンギスに協力をお願いする場合、その場面を描くのが普通だけれど、過程を一切描かずに、急にチンギスが助けにやってくるという、これまでのセオリーと違う、ずっと、「何? 何が起こったの?」という興味が持続する作り方にしました。それが功を奏して、皆さん、観てくださったのではないかと思います。
――これまでのセオリーから外れようとしたんですね。
福澤:それは『半沢直樹』(TBS系)のときからそうでした。銀行のなかで争っている男同士の話なんて、それまではなかったし、あってもヒットしなかった。まず成功しないという周囲の反対のなか、ビビりながら作りました。でもそれがよかったのかもしれないと思って、今回も原作なしにして、恐怖心と戦いながらオリジナルを作ることにしたんです。
――第1話で何も話が進まなくて、視聴者の反応がやや引いたときはどう感じたんですか?
福澤:引いた人もいたけれど、反響も大きかったんですよ。いままでにないドラマであったことと、キャスティングが良かったのでなんとか押せるかなと思っていました。第3話まで観てくれたら、第4話から行くぞと思っていたので。
――第4話の露悪的なシーンは掴みのための狙いですか?
福澤:狙ったわけではないですが、ある程度、毒のようなものが必要だと思っていました。でもこれは当たったから言えることですけれどね。
――勝負ですよね。
福澤:勝負。何度も言いますけれど、観ている人は遥か上をいってますから、こんなの作ったぞと思っても、視聴者には、ああ、こういう話ねって見切られる。予想を裏切っていく展開を作り、なんだか乗れないけど観てみようという気になっていただけると最後までいけるかなと思ったんですよ。これはフタを開けてみないとわからないことで。でも、勝負作がもし当たったときのために、いろいろなことを準備しておかないといけないんです。
――作家のみならず、若い演出家の方々は、経験したことのない海外ロケで育ったのでしょうか?
福澤:激しいドラマをやればやるほど自信がつくもので。今回、参加したTBSの若い社員演出家・加藤亜季子と宮崎陽平は、羊3000頭くらいさばけるという自信がついたことでしょう。ホームドラマしか経験していないと、トラックを走らせ、パトカーをぶっ潰して、車体が凹んだら、トンカチで直していけばいいんだっていう力技のノウハウを獲得したと思いますよ。社員ADも多く参加させました。
宮崎:全員自信満々になって日本に戻りました。ひじょうに勉強になりまして。今後、どんな作品でも、このときジャイさんはこうやっていたなと心の支えになる前例を、目の前で見せていただいきました。
福澤:ドラマは最後は体力。というか、要するに経験値ですよ。『陸王』(TBS系)を経験したら、エキストラ1万人はさばけると思う。どんどん大きなスケールを経験すると、ビビらなくなる。ただ、そうすると、予算がかかって(笑)。それでもやってみるわけは、とにかくみんな、わかってるんですよ、このまま、低予算の小規模のドラマを作っていたら立ち行かなくなるってことを。それと、TBSドラマ部のノウハウの伝承ですよね。他局はどんどん制作会社に任せていますが、うちはTBSスパークルにも任せているとはいえ基本的に社内で作っています。それだと大赤字のときもあるんですよ。コロナ禍や悪天候で、撮影が止まったとき、制作会社を入れていると、あらかじめ予算が決まっているから、予算の管理がしやすいんです。そうやって外に任せると、現場で制作するノウハウの伝承が社内間でストップする。石井ふく子さんをはじめとしたTBSが作ってきた伝統あるドラマの作り方をストップさせないために、たとえ赤字になっても作り続けることが大事なんです。
――TBSドラマらしさとはなんですか?
福澤:規格外。ホームドラマのイメージが強いけれど、行くときは行くぞ、というような。とくに日曜劇場は大変ですよ。映画クオリティ並の脚本と演出、映画クオリティ並の役者を出して、毎週盛りあげていく作りかたは、ほんとうにしんどい。でも、日曜劇場だからこそ爆発するということもあります。だから毎回、吐きそうになりながら、作り続けるしかない。そして、低予算のドラマを量産する時代はそろそろ終わりにして、世界を目指す。世界への挑戦に関してはまだまだこれからですが。
■配信情報
『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』
U-NEXTで配信(全10話)
#1〜4:12月15日(金)12:00
#5〜7:12月22日(金)12:00
#8〜10:12月29日(金)12:00
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