『踊る大捜査線 THE LAST TV』で発揮される“緊張と緩和” スリーアミーゴスの見せ場も
『踊る大捜査線』といえば、コミカルな会話劇やブラックユーモアも作品を構成する大きな要素であり、『踊る大捜査線』が国民的なコンテンツに成長したのはこのコメディとしての側面もあってこそだった。
1997年に放送されたドラマシリーズ第2話「愛と復讐の宅急便」では、青島の刑事としての先輩である和久平八郎宛てに届けられた健康チェアに手榴弾が仕掛けられており、容疑者と対面している室井と爆弾を目前にした青島が、電話を介して爆弾の解除方法を探るストーリーが展開されるのだが、この回のテンポ感ややり取りは『踊る大捜査線』のコメディとしての側面を象徴している。椅子から立つと爆発してしまう爆弾椅子を巡る緊張感のあるストーリーとその合間合間に挟まれる湾岸署らしいギャグ。目の前に今にも爆発しそうな爆発物がある中で、レストランの予約をキャンセルせずにあくまでも先延ばしにし続けるすみれや、飲み会の約束をした女性警官からの電話が署内中に響き渡る青島、そしてこの緊迫した空気の中で署内に上がり込んで加入を催促してくる保険屋の営業。桂枝雀が提唱したとされる笑いの基本となる理論「緊張と緩和」が矢継ぎ早に炸裂する展開はコメディドラマとコントのギリギリのラインだ。まだまだ『踊る』という作品がスタートしたばかりの第2話というタイミングでここまでコメディに振り切った作劇をしたことで、その後の『踊る』におけるコメディテイストが定着したと言えるだろう。
『踊る』における「緊張と緩和」と言えば劇場版第2作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のアバンタイトル(オープニングムービー前のプロローグシーン)における豪華客船で繰り広げられるSATとの訓練シーンだろう。湾岸署の面々が犯人役となり本気でSATを倒そうとする緊張、そして本当に湾岸署の面々がSATに打ち勝ってしまった後の青島の一言における緩和。このシーンがシリーズの中でもファンから言及されることが多いのは、『踊る』における「緊張と緩和」を象徴しているからこそだ。
『踊る』におけるコメディリリーフの代表的な存在といえばスリーアミーゴスの3人を思い浮かべるファンも多いのではないだろうか。湾岸署の署長である神田総一朗、副署長である秋山晴海、青島らが在籍する刑事課の課長である袴田健吾によるスリーアミーゴスは『THE MOVIE』における部下の領収書の破棄や『THE MOVIE 2』における神田署長の不倫もみ消しや出入り業者からの賄賂の受取、『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』における青島の健康状態に関する重要情報の秘匿など、客観的に見ればかなり職業倫理の危うい存在であるが、それでもなお彼らが愛されているのは彼らの登場シーンにおけるコミカルな演技と会話のテンポ、演出によってコメディとして見せる事ができているからこそではないだろうか。