福澤克雄監督は『VIVANT』で何を目指したのか 「低予算のドラマを量産する時代は……」

『VIVANT』福澤克雄監督が語る秘話

 モンゴルロケまで行ったスケールの大きさで2023年の話題をさらった、日曜劇場『VIVANT』(TBS系)の特別版『VIVANT別版 ~副音声で福澤監督が語るVIVANTの世界~』がU-NEXT Paraviコーナーで配信開始。原作、チーフ演出の福澤克雄を中心に演出陣による副音声で裏話も楽しめる。その収録真っ最中にインタビューを行った。謎の組織・別班に所属する乃木憂助(堺雅人)が世界を股にかけて活躍するオリジナルドラマ。果たして最終回でも残ったままの謎の数々については副音声で明かされるのだろうか。(木俣冬)

「僕はもともと“考察ドラマ”とは思っていなかった」

――副音声版の収録はいかがでしたか?

福澤克雄(以下、福澤):作るときに何十回と観ているので、見飽きていると思ったけれど、改めて画面を観ると、このシーンは大変だったなあとか、いろいろ思い出すことがありました。ただ、これまでいろいろなところで作品について話しているので、これは新情報なのか、既出情報なのかわからなくなっちゃって(笑)。

――どんなことを話していますか?

福澤:10月に『VIVANTドラマロケ地&島根満喫ツアー』という、島根にある乃木家をはじめとしたロケ地に僕とドラム(富栄ドラム)とで行く企画があって。そのとき、参加してくださった、熱烈なファンの方々の反応から、「細かいところが聞きたいんだ」と感じたんです。例えば、実は、第3話の空港はモンゴル出国も日本入国もモンゴルで撮ったわけは、日本では撮れないからで、日本はロケの規制が厳しいのだ、という話や『VIVANT』を作るにあたって“第1話を捨てた”という話など。今回、ドラマづくりで挑戦したことや、皆さんが聞きたいであろう裏話をしています。あのまんじゅうの話も……。もうこれ以上は言えません。U-NEXTでご覧ください。

ーー“第1話を捨てる”とはどういう意味ですか?

福澤:いわゆるドラマパートは後半にとっておいたんです。日本のテレビドラマの作り方は第1話が勝負というセオリーがあります。つまり、第1話を面白くするためにあらゆることを注ぎ込む。面白くするには物語を動かさないといけない。そのためには原作本の3分の1くらい使うこともあるくらいで。「話が動いた、どうだ、おもしろいでしょう」とするために、最大限のパワーで第1話に臨みます。けれど、気合を入れ過ぎると、視聴者に見透かされてしまうこともある。僕ら作り手よりも視聴者の皆様のほうが数倍上をいっているから、気合を入れた第1話を観て、その後の展開の予想をつけてしまう。ところが、海外ドラマは、なんだかよくわからないが面白そうという感覚を大事にしていて、第1話を観ただけでは、なんのドラマかわからないんです。それに倣って、『VIVANT』は、回を重ねるにつれて、ようやく何をやっているかわかるような作りにしようと考えました。例えば、当初は、第1話で乃木憂助が別班だとわかるようにしようと思っていましたが、それがわかったら面白くないと思って止めました。

――ドラマを動かさない代わりにどうしたのでしょう?

福澤:ドラマが動かない分、画で展開させていくことにしました。乃木がただ逃亡するだけのことを、トラックを走らせ、山羊や羊を3000頭、動かしたり、肥溜めに役者を放り込んだりして、インパクトある画で見せていく。その後、第2話、第3話から第4話まで進んだとき、一気にドラマが動き出し、がらっと雰囲気が変わるように台本を作りました。ほかのドラマは、第4話で中だるみしがちで、がくっと視聴率が落ちるところ、第4話で大きな出来事を起こして、視聴者を引き付けるという作り方にしたんです。これは大きな挑戦で、「正直、半信半疑、ビビりながら作った」というような話を副音声でしています。

――確かに、第4話から話が進み、方向性も見えていきますが、最終回に至ってもなお、わからないことが満載です。

福澤:裏設定のようなものは前もって俳優には話しているので、作り手や演者のなかでは、描かれていない空白の部分の辻褄は合っているんです。

――その空白の部分は、視聴者の考察のために、あえて空けたりボカしたりしているということですか?

福澤:いや、僕はもともと“考察ドラマ”とは思っていなかった。一番、やっちゃいけないと戒めていたことは、「犯人は誰だ?」というドラマです。考察に次ぐ考察で、視聴者を裏切り続けて、最後はあっけない真実が明かされるというようなドラマがよくありますが、それだと、その後、2回、3回と観る気にはならないですよね。そういうドラマではなく、何度も観るに値するドラマを作ろうと思っていました。

――放送前に撮り終わっているから、視聴者の反応を見て流れを変えているわけでもない。つまり、場当たり的でなく、すべての物語が最初から決まっていたということですか?

福澤:乃木が別班であることを、考察させるために引き伸ばしているわけではなく、練りに練ったうえで、明かすタイミングをズラしているんです。それはあくまで、ドラマとしての面白さを考えてのことです。

福澤克雄

――確かに、全話、俯瞰で見ると、各所が複雑に絡み合い盤石になった構成ですよね。

福澤:まず第1話から第10話まで作ってから、もう1回、第1話に戻って、第8話まで再考したら、もう1回、第1話に戻って……とそれを繰り返しながら、強度を上げていきました。これは、ここで明かすのをやめようとか、いろいろ試行錯誤しているんですよ。乃木と薫(二階堂ふみ)のシーンでも、テッパンだと思うような場面も考えていたけれど、途中でやめたりして。

宮崎陽平(演出担当):そんなのあったんですか? マジですか? そんなの読んでません!

福澤:構想にあったけどやめたの(笑)。

――考察班と言われる人たちの考察は合っていたのでしょうか?

福澤:どうでしょう(笑)。まあ『アラビアのロレンス』をオマージュしようとかドラムの設定は『スター・ウォーズ』のチューバッカとか、そういうことは堂々と明かせますが。

――福澤さんは、視聴者の“考察”をどう思っていますか?

福澤:あまりに増えて、途中からチェックしきれなくなってしまいましたが、最初はどんな考察が行われているかチェックしていました。あとから明かそうと思っていたことを読まれていて、参ったなあと思ったこともあれば、まったく外れていることもありました。例えば、第1話でザイールが撃たれたシーンで、2発撃たれていると気づかれたときは、「バレた!」と思いましたし、黄色を着ているキャラは裏切り者という考察や、タイトルの頭文字と役の頭文字がリンクするという考察は、まったく思いもよらなかったです。

宮崎:僕は、演出兼公式SNS担当だったから、SNSの反応にはできる限り目を通すようにしていました。そこで語られていることをジャイさん(福澤の愛称)に相談して、公式から回答したほうが良さそうなことを検討して、出していました。たとえば、「ノコル(二宮和也)の肌が白いのはなぜだ?」という話題で盛り上がったとき、第9話くらいまで観てもらえれば、会社の社長なので室内にいることが多いから、あまり日焼けしてないことがわかるのになあと思ったりしました。あとは、黒須(松坂桃李)と乃木は野崎(阿部)の車を追いかけているとき、距離が近すぎて、絶対気づくだろうというツッコミが入ったとき、モンゴルの国道は砂漠のど真ん中にあって土煙が上がるので、前後がよく見えないのだという豆知識を公開しました。

福澤:Google Mapを見ると、国道になっていますが、実際は道なき道の砂漠なんですよ。その画をもっとわかりやすく描ければよかったと反省しています。

――どのキャラクターも印象的です。福澤さんの推しキャラは?

福澤:推しキャラは全員です。主要キャラは当然として、脇でいえば、山本(迫田孝也)はこのドラマのなかではゲス系キャラにもかかわらず、なんでこんなに人気が出たんだろう(笑)。迫田さんがひじょうにいい塩梅でお芝居をやってくれたからでしょうね。もうひとりのゲス系であるバルカ共和国の外務大臣・ワニズ役の河内大和さんは、はじめて仕事をしたけれど、すばらしくインパクトのある芝居をやってくれました。あとはやっぱり、チンギス(バルサラハガバ・バタボルド)とドラム。人気は出ると思っていたけど、あそこまでとは思っていなかった。ノコルも、難しい役だったと思います。嫉妬心を燃やすようなところもあれば父親への尊敬心もあり。大人になりきれていない青年の雰囲気がとてもよく出ていました。でも、やっぱり、軸には堺雅人さんと役所広司さんと阿部寛さんがいるから、ほかの役も輝くのだと思います。

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