『どうする家康』北川景子が一人二役だった意味 “滅ぶ道”を選んだ茶々の美しさ
そんな茶々が家康からの文を受け取った。茶々は江から文を手渡されると冷淡な表情を見せ、文を読み始めた時には家康の文言を鼻で笑う。憎き家康の言葉一つ一つが癇に障るような面持ちを見せながらも、ある言葉で茶々の顔つきが一瞬にして変わった。
「秀頼殿は、これからの世に残すべきお人。いかなる形であろうとも、生き延びさせることこそが母の役目であるはず」
「かつて、あなたの母君がそうなさったように」
市の思いに気づかされた茶々の表情には、野心も憎しみもなかった。母のために“憧れの君”の無事を祈っていた頃の茶々に戻ったかのように、一瞬幼げな面持ちに映ったが、次に映し出された横顔が胸を打つ。母の思いと家康への憎しみ、愛する秀頼を死なせたくない母としての思いとすでに目覚めてしまった自らの野心、それら全てにあらためて気づかされたことで、さまざまな感情が一気に押し寄せてきたのか、茶々はそれらをこらえるように、眉間にしわを寄せ、泣くまいとしている。
北川は公式サイトにて、「最初は、一人二役だと見ている方を混乱させてしまわないかと不安も大きかった」とメッセージを寄せていた。しかし「しっかりと演じ分けたい」と努めた北川自身の真摯さと、市を演じたことでブレることなく市の思いを理解できたからこそ、複雑な心境ゆえに押し寄せる感情をこらえるといった演技が表現できたのかもしれない。
けれど、第47回の幕引きは残酷だった。茶々は「母」として、秀頼自身の決断に身を委ねるが、秀頼は自身の意思で乱世を選んだ。「異論ござらんな」と振り返る息子に、茶々は目に涙を溜めながらも気高く微笑む。
家康は「乱世を生きるは、我らの代で十分」「私とあなたで全てを終わらせましょう」と文に綴っていた。そして「乱世の生き残りを根こそぎ引き連れて滅ぶ覚悟にございます」とも。「余は、信長と秀吉の血を引く者」と名乗る秀頼もまた、乱世の生き残り、「乱世の亡霊」だ。
「共に行こうぞ、家康!」
家康の文を燃やし、茶々は息巻く。家康と共に滅ぶ道を選んだ茶々は、皮肉にも、この上なく美しかった。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK