『銀河鉄道の父』役所広司と菅田将暉が紡ぐ“循環”の物語 父から見た宮沢賢治の生涯とは
これは、賢治の父・宮沢政次郎の物語だ。家族の視点だからこそ見えてくる、賢治の姿がある。例えば、『雨ニモマケズ』という、誰もが知っている詩が、賢治が結核で苦しんでいた昭和6年に自身の手帳に書き綴った言葉だったということ。そのことは、「丈夫ナカラダヲモチ」という、健康な人間からすれば当たり前のことであるように感じてしまう一文が、病床の彼にとっていかに切実な願いだったのかということを改めて考えさせる。また、彼より先に亡くなったトシが、その死を前に「次生まれてくるときは、もっと、もっと強い体で」と言うことから、その思いは政次郎の娘と息子、2人分の思いとなって、父親、すなわち演じる役所広司の声を通して、観客の元に届くのである。
本作は、「続いていくもの」を描いた映画だ。「怖くないのです。死なないでいられる人などおりません。若い人も年老いた人も、子どもでも」というトシの台詞が象徴するように、本作はいくつもの「死」を描く。彼ら彼女らの死と、生きている人たちによる、亡くなった人との別れの儀式を繰り返し描いている。一方、「死」と同様に繰り返されるべき「生」の物語はどうだろうか。例えば、喜助がその死の前に、混乱してかつて政次郎が生まれたときの喜びの言葉を口走ることが、賢治が生まれたときの政次郎の姿と重なること。「新しい文明開化の時代の、明治の父親」として率先して育児に関わろうとする政次郎を見て、「お前は父でありすぎる」と微笑む喜助の姿。その、先代であるところの父と子の関係性が見事であればあるほど、政次郎の当初の望み通り「長男として家業を継ぎ、子供を作る」ことをしなかった、「できねえ、俺にはもう何もできねえ」と言った賢治の苦悩と葛藤を思わずにはいられないのである。
当時の人々にとって「当たり前」の繋がりを断つ他なかった彼だからこそ生まれた「物語を作る」ことへの執念が、多くの優れた作品を作った。その姿を見た政次郎は、賢治の生み出した物語が彼の生んだ「子ども」だと言うのなら、自身の「孫」でもあるのだと、彼の生み出す作品の数々を心から慈しんだ。つまり、『銀河鉄道の父』は、『銀河鉄道の夜』の著者である宮沢賢治の父・政次郎の物語であるとともに、『銀河鉄道の夜』を生み出した「父としての賢治」を描いた映画である。そして、彼が生み出した物語という名の「子どもたち」は、その後生まれた人々の心に根付き、永遠の循環を生んでいるのである。
■リリース情報
『銀河鉄道の父』
11月8日(金)Blu-ray&DVD発売
Blu-ray:5,280円(税込)
DVD:4,290円(税込)
<Blu-ray映像特典>
・予告編
・SPOT集
特報(30秒)/主題歌入り特報(65秒)/予告編(30秒・60秒・120秒)
WEB SPOT(15秒)/TV SPOT(感動編15秒/コメント編15秒)
・メイキング
・舞台挨拶集(完成披露試写会、花巻特別試写会、初日、公開記念)
・映画「銀河鉄道の父」特番〜日本中に届けたい感動の物語〜(23分)
<DVD映像特典>
特報(30秒)/予告編(60秒)
出演:役所広司、菅田将暉、森七菜、豊田裕大、坂井真紀、田中泯
監督:成島出
脚本:坂口理子
原作:門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社文庫)
音楽:海田庄吾
主題歌:いきものがかり「STAR」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作プロダクション:キノフィルムズ、ツインズジャパン
配給:キノフィルムズ
製作:木下グループ
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2022「銀河鉄道の父」製作委員会