『愛の不時着』『ウ・ヨンウ』を輩出! 地上波を圧倒する韓国のケーブルテレビ事情

新勢力ENAの躍進

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(ENA公式サイトより)

 最後に、JTBCとtvNの牙城を崩そうとする新しい勢力を紹介したい。韓国最大の通信大手KTグループの系列会社skyTVが運営する総合ドラマ・娯楽チャンネルENAだ。

 ENAは、衛星放送スカイライフにおけるチャンネルのリブランドとして2022年4月29日に誕生。ミリタリーサバイバル番組『鋼鉄部隊』など人気バラエティを輩出していたが、ターニングポイントとなったのは2022年9月に放映がスタートしたチャンネル2作目のオリジナルシリーズ、『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』だ。

 本作は、自閉症スペクトラム障害を抱える弁護士ウ・ヨンウが、持ち合わせた天才的な頭脳とユニークな発想で依頼者の問題を解決していく、完成度の高いリーガルドラマであると同時に、ハンディキャップを持つウ・ヨンウの成長や、周囲もまた彼女の困難を理解し尊重していく過程が描かれている。社会が世界的に不寛容へと傾く現代に、エンターテインメントの形で分かち合いを提示した傑作ヒューマンドラマであった。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の大成功により、ほぼ無名の新会社であったENAは台風の目として躍り出た。先に挙げた百想芸術大賞での大躍進は記憶に新しい。元々子役として活躍し、演技力にも定評のあったパク・ウンビンをスターダムに押し上げるきっかけともなり、2020年代の韓国ドラマ史において実にエポックメイキングな作品となった。

 その後も、韓国人男性なら誰もが身につまされる兵役生活をコミカルに描き、シーズン2も制作されるなど好評を博した社会派ブラックコメディ『新兵』、『犯罪都市』の悪役でも強烈な印象を残したユン・ゲサンが不器用な誘拐犯を演じる『誘拐の日』など、小規模の放送局であることを生かした独自の着眼点が光る上質なコンテンツを世に放ち続けている。

 ソウルでも釜山でも、あるいはほかの地方都市でも、韓国旅行の楽しみが現地でのテレビ鑑賞という方も多いのではないだろうか。韓国のケーブルテレビ局は、いわばまだ見ぬ宝の山。旅のついでに、ぜひお気に入りのシリーズを探してみてほしい。

参照

※1. 『中央日報』『朝鮮日報』『東亜日報』『毎日経済新聞』が2011年に設立した4つのケーブルテレビ局の総称。元々ニュース専門チャンネルなどのケーブルテレビ局を経営していた4社による新しい放送局では、従来の報道に加え教養、娯楽など全ての分野を扱う。
※2. Misa『韓国ドラマの知りたいこと、ぜんぶ』(青春出版社)
※3. https://diamond.jp/articles/-/249911?page=2
※4. https://moviewalker.jp/news/article/1109295/
https://www.soumu.go.jp/g-ict/country/korea/detail.html#tv
https://onemore-korea.site/contents/drama_column_200921/

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