『バレリーナ』がこだわった映像表現 画面の美的な完成度によって獲得した優雅さ

『バレリーナ』がこだわった映像表現

 1990年生まれのイ・チュンヒョン監督は、同じくNetflixで配信されている初長編監督作『ザ・コール』から、その映像へのこだわりを進化させてきている。本作の主演チョン・ジョンソとは、そこで出会い、公私のパートナーとして引き続きタッグを組んだのが本作ということなのだ。本作における、彼女の魅力を演出の側で十二分に発揮させるスタイルというのは、それを知れば納得できるところが少なくない。

 香港やハリウッドで活躍するジョン・ウー監督のアクションは、「バレエのよう」と言われたり、「詩のよう」と表現されたものだが、本作ではアクションそのものというよりは、全体的な画面の美的な完成度によってバレエや詩のような優雅さを獲得しているといえる。

 そのようなスタイルを一概に軽薄だと考えたとしたら、それは早計だろう。なぜなら映画史において、画面の美的な完成度を求めることは、これまでの多くの映画監督、クリエイターにとっての大きな命題の一つといえるものだからだ。とはいえ、脚本や演技、はたまた衣装などの魅力の方が主である映画にも存在価値があるというのが、映画という文化の懐の深さではある。

 ともあれ、テーマや主観的な雰囲気に沿って、ポエティックな映像表現に特化するといった本作の試みは、単にアクション映画をオシャレに撮りあげるといったレベルを大きく超えているところがある。とくに夢のような暗くファンタジックな映像表現が用意されているラストシーンでは、それが顕著に表れているはずだ。まさに、こういった映像表現のためにストーリーを使役しているのである。

 主演のチョン・ジョンソと、本作で変態的なキャラクターを肉体美とともに表現したキム・ジフンは、同じくNetflixで配信中の『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』でも共演しているように、イ・チュンヒョン監督とともにNetflixとの関係を構築したことから、世界の観客や業界への足掛かりを掴んでいるといえる。とくにチョン・ジョンソは、日本で11月に公開予定のアメリカのファンタジースリラー映画『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』で、すでに注目をあびている。また、『ドライブ・マイ・カー』(2021年)でも印象的な演技を披露しているパク・ユリムが、本作で悲劇のバレリーナを演じることで、その波に加わっている。

参照

※ https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2227333

■配信情報
『バレリーナ』
Netflixにて独占配信中
Yoo Eun Mi/Netflix © 2023

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