MV出身監督グラント・シンガーの驚くべき達成 『レプタイル -蜥蜴-』の凄さを解説

『レプタイル -蜥蜴-』の凄さを解説

 さまざまなジャンルの映像作品を製作、配信しているNetflix。そのラインナップのなかでも、映画ファンたちがとくに歓迎したいのが、気鋭のクリエイターによる作家性の強い映画作品なのではないか。『レプタイル -蜥蜴-』は、まさに待ち望んでいるものを提供してくれる、得難いタイトルである。

 監督しているのは、ミュージックビデオの監督として知られるグラント・シンガーだ。これまでザ・ウィークエンド、サム・スミス、アリアナ・グランデなどのアーティストの楽曲に創造的なビジュアルを与え、Netflixで配信されている、シンガーソングライターのショーン・メンデスのドキュメンタリー作品も撮り上げている。『レプタイル -蜥蜴-』は、そんな彼の最初の長編映画なのだ。

 では、それがなぜ映画ファンにとって得難い内容になっているといえるのだろうか。ここでは、本作『レプタイル -蜥蜴-』の凄さがどこにあるのかを、じっくりと解説していきたい。

 本作の舞台はアメリカ、メイン州スカボローだ。あの名曲「スカボロー・フェア」で有名なイギリスのスカボローではないが、同じように海岸や自然の美しい町である。そんな平和で静かな環境で、サマーという不動産業者の若い女性が何者かによって惨殺されたことで、ベニチオ・デル・トロ演じるトム・ニコルズ刑事をはじめ、地元の警察が捜査に乗り出す。

 同じく不動産業を営む、被害者恋人のウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)、被害者の元夫であるカール(サム・ギフォード)、怪しい行動が報告されているイーライ(マイケル・ピット)など、容疑者は一様に秘密を抱えているように見え、犯人の目星はなかなかつきそうにない。如才ない妻のジュディ(アリシア・シルヴァーストーン)と二人で穏やかな生活を営んでいるトム・ニコルズ刑事ではあるが、入り組んだ捜査を続けていくことで、事件に関係した悪夢にさいなまれていくことになる。

 本作が特徴的なのは、作品全体にずっと不穏な雰囲気が漂っているところだ。画面は絶えず薄暗く、黒やグレーを基調にしたダークなトーンでコーディネートされている。そして、クラシックと電子音楽に精通したドイツの音楽家ヤイール・エラザール・グロットマンを招聘し、アカデミックなオーケストレーションとエレクトリカルな音響や打ち込みのリズムを融合させた劇伴をマッチさせてもいる。このあたりの総合的なデザインは、ミュージックビデオで培われた監督のセンスが遺憾無く活かされているといえるだろう。

 注目してほしいのは、本作の映像と音楽が醸し出す作品世界のセンスの良さというものが、ミュージックビデオ監督がこれまでの技術を発揮したという、ありきたりな説明で納得できるようなレベルに収まっていないという点だ。ミュージックビデオと劇映画作品は、もちろん異なるプランで製作されるべきものだと考えられているが、グラント・シンガーは、最初の長編映画にもかかわらず、すでに諸々の演出が、映画作家として高いレベルにあるように感じられるのである。

 この才気は、同じくミュージックビデオ界から映画監督として巨匠となっていったデヴィッド・フィンチャー監督の作品を想起させるところがある。ミュージックビデオ出身といえば、何となく突飛な演出で奇をてらうような、軽薄なイメージを持つ観客もいるかもしれない。だが、フィンチャー監督やスパイク・ジョーンズ監督、ザック・スナイダー監督など、映画界で大きく成功することになった才能は少なくない。

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