ロバート・ロドリゲスからの挑戦状!? 『ドミノ』鑑賞前に押さえておきたいこと

『ドミノ』鑑賞前に押さえておきたいこと

 『デスペラード』(1995年)、『シン・シティ』(2005年)などのバイオレンスアクションを中核に、さまざまなジャンルを横断しながら映画界で活躍してきたロバート・ロドリゲス監督。『スパイキッズ』シリーズや『ヒーローキッズ』(2020年)などの子どもたちを主人公にしたアドベンチャー作品や、日本の漫画を原作にした『アリータ:バトル・エンジェル』(2018年)を手がけたり、『スター・ウォーズ』の大ヒットドラマ『マンダロリアン』シリーズのエピソード監督を務めたように、SF作品にも果敢に手を伸ばしている。

 そんな、いつでも新たな表現を追い求めているロドリゲス監督が、またしても全く異なる分野に挑戦した。ここで紹介する映画『ドミノ』は、サスペンスとアクション、心理スリラーなどが融合した、着想から20年の時を経て完成したという新境地の一作。人間の心理と世界の謎に迫り、観客を絶えず惑わしながら進んでいく迷宮のような内容は、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)や、『TENET テネット』(2020年)などをも想起させる。

 ここでは、そんな本作『ドミノ』を観るうえで、どのように心構えをするべきなのか、そして次々に繰り出される謎の行方について、重大なネタバレを避けつつ考察していきたい。

 一つ目の謎は、本作の冒頭で示される、幼い少女ミニーの誘拐事件だ。白昼の公園で遊んでいた少女ミニーは、父親のダニー・ロークが一瞬目を離した隙に連れ去られてしまう。後日、犯人の男は逮捕されたものの、ミニーの行方については記憶がないと証言している。果たしてそれは嘘なのか、本当なのか。そしてミニーの安否や居場所は明らかになるのだろうか……。

 最愛の娘が消えてしまったことで、ダニーは憔悴し、精神的にギリギリの状態が続いている。彼を演じているのは、ベン・アフレック。バットマン役や、『ゴーン・ガール』(2014年)で体現していたように、一種の喪失感を醸し出す演技を体得している現在のアフレックは、まさにハマり役だといえる。

 そんなダニーの正気をかろうじて保たせているのは、刑事の職務にあたり、目の前の事件に集中することだけ。そんな彼のもとに、銀行強盗が計画されているという“タレコミ”があったという報告が届く。もちろん、ダニーは足早に現場へと急行する。

 そこに犯罪者として現れたのは、第二の謎となる、人間の行動を自在に操ることのできる異様な雰囲気を持った男(ウィリアム・フィクナー)だ。彼はちょっとした仕草だけで、会ったばかりの人々の心理を操り、自分の犯行に加担させてしまう。この魔法のような力は、どうやら本作の原題である「Hypnotic(ヒプノティック)」に関係があるようだ。

 そして第三の謎は、この男の手がかりを握っていると思われる、占い師の女性ダイアナ(アリシー・ブラガ)。彼女は謎の男について、何かを知っているようなのだ。しかしダニーが彼女から情報を聞き出そうとするとき、男は襲撃をかけてくる。警察までも味方に引き入れ、目の前の現実すらねじ曲げてしまう強力な力から身を守るため、ダニーとダイアナは危険な逃避行に旅立つことになる。

 これらの謎が提示された上で、観客が疑問を感じる点は、人を思うままにコントロールし、現実を改変することなどできるのかという部分ではないか。そしてこの要素は、いったい何を表現しようとしたものなのか。

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