『ゾン100』は社会人にこそ沁みる物語 ゾンビ×現代社会人に込められたメッセージを読む

『ゾン100』は社会人にこそ沁みる物語だ!

 “ゾンビ”を題材に世紀末を描いた作品は、これまで数多く制作されてきた。

 現在放送中のアニメ『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと』(以下、『ゾン100』)においても、「現実社会におけるゾンビ映画的な世紀末化」が描かれている。しかし、本作では、絶望的な状況に対してポジティブな視点を持った主人公・天道輝が自分の「やりたいこと」に向き合うという“逆転の発想”が提示されており、「青春・ゾンビ・サバイバルアクション」という新たなジャンルが確立されていた。

【2023年7月アニメ化決定!】TVアニメ『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』PV第1弾

「ゾンビとは我々自身である」

 これは、ゾンビ映画の第一人者であり、ホラー映画の巨匠として知られるジョージ・A・ロメロ監督が残した言葉である。

 今日の映画で見られるようなゾンビが“死者が蘇生し人間を襲う存在”であるという設定や、ゾンビ作品に社会風刺を取り入れるという構造は、ロメロの長編デビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)で確立されたといわれている。

 『ゾン100』は、ロメロが築き上げたこの基本構造を受け継ぎつつ、主人公が日本のブラック企業に務めている「現代社会人」であるという社会風刺が組み込まれているため、“ゾンビ”を題材にしながらも今までになかった“新感覚の面白さ”を帯びているのだ。

「ゾンビ」のように生きていた主人公に反映された「現代社会人」

 第1話に登場した主人公の輝は、徹夜を重ね死んだような目をしていたり、理不尽な上司に振り回されたことでひどく病んでいたりと、まるで“生きているのに意志を持たないゾンビ”のようだった。そして、ゾンビ・パンデミックにより世界が崩壊に陥ったことで「ゾンビになるまでにしたい100のこと」というリストを作り、「生きること」を見つめ直していく姿が描かれていく。

 本作における社会風刺は、この「ゾンビのように生きる現代社会人」を主人公にしている部分にある。

 作中では、ゾンビ・パンデミックが起きる前にゴミ屋敷と化した部屋で、輝がブラック企業を取り上げたテレビ番組を見ているシーンがある。この場面で彼は、カップラーメンを啜りながら「へえ……ブラック企業って大変そうだな」と明らかに他人事であるかのようなセリフを吐いており、そんな彼を客観的に見ている私たちも思わず「あなたが一番重症だよ」とツッコミたくなるような構図ができている。

 そんな彼がやっと目を覚ましたのは、ゾンビ・パンデミックが起き、もう仕事に行かなくていい(行けない)と気が付いた時である。ここに、このような事態にならないと自分の「やりたいことに向き合えない現代社会人」という皮肉が込められているのだ。

ゾンビ・パンデミックを“生き生き”と楽しむ主人公

 本作を観ていると、ゾンビ・パンデミックに陥った世界の方を堪能している輝に脳が麻痺していく感覚を覚える。

 「昼間からビールを飲んでダラダラする」と、やりたいことリストに書き込んだ輝は、外でゾンビたちが動き回っているにもかかわらず鼻歌を歌いながらコンビニにビールを取りに行ったり、親友の竜崎憲一朗(通称:ケンチョ)と共にゾンビに囲まれたビルの屋上でべランピングをしたりと、ゾンビ・パンデミックに陥っている状況とは思えないほど充実した日々を送っている。

 そして、「好きだった人に想いを告げる」、「部屋の大掃除をする」、「親友と朝まで飲んで馬鹿騒ぎする」といった、“ブラック企業に勤めていた頃の自分にできなかったこと”を遂行していった彼は、次のステップに入ることになる。

 それは、輝が小学生の頃に憧れていた「ヒーローになりたい」という夢を叶えることだ。

 ゾンビ・パンデミックが起きた後の作中の彼は、とにかく目がキラキラと輝き、朝目覚めた瞬間から表情に希望が満ち溢れている。そして何より、「ゾンビになるまでにしたい100のこと」リストを全力で楽しんで実行していく彼の姿は、“現代社会人”である私たちにまで活力を与えてくれる。

 またTV放送が日曜日の17時というのもなかなか興味深い。もしかすると、「会社を辞めて自由に生きる」輝の姿に影響された社会人たちの中には、本作を日曜に観て“会社を辞める決心”が着いたという者もいたかもしれない。

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