映画『ミステリと言う勿れ』はシリーズの集大成に 原菜乃華の“アイドル映画”の一面も

 9月15日に公開された映画『ミステリと言う勿れ』は、2022年に月9(フジテレビ月曜21時枠)で放送された菅田将暉主演のドラマを映画化したものだ。

 原作は田村由美の同名漫画(小学館)。タイトルの通り、本作はミステリーの枠組を借りているが既存のミステリードラマとは違う不思議な味わいのドラマに仕上がっていた。

 物語は大学生の久能整(菅田将暉)が行く先々でさまざまな事件に遭遇して、謎を解く姿を描いたものとなっている。こう書くと整が探偵役を務める、よくあるミステリードラマではないかと思うかもしれないが、物語は毎回、意外な場所に着地する。

 何より新しかったのが整の人物造形だろう。細かいことに気が付き、豊富な知識を持つ整は、次々と事件を解決するが、ヒーロー性はとても希薄だ。「僕は常々思うんですが〜」から始まる既存の価値観(その多くは家族や男女の在り方に対するものが多い)に対して異議申し立てする姿は、今の時代ならではのヒーロー性の発露とも言えるが、ボソボソと遠慮気味に喋り、常に相手のリアクションやその裏にある気持ちに配慮して対話をしようとする。こういった距離の取り方が、彼の人間的魅力となっている。

 菅田は、TVer+に掲載されたインタビューで、当初は淡々と喋るように心がけていたが、それだと“教祖感”が出てしまい、整がただの不思議な人になってしまうため、演技プランを変えたと語っている。(※)

「整くんも間違えるし、すべてが正しいわけではない。見ている側にも、何が正しいのか一緒に考えてもらえたらと思っています」と同インタビューで菅田は語っているのだが、事件の謎を解き明かす探偵だけが正解を知っているため、教祖のような存在になってしまう危険性は、ミステリーが抱える構造的問題だと言える。

 そのため、ミステリーを書いていることに自覚的な作家ほど、探偵の限界を描いてきた。TVドラマでは堤幸彦がチーフ演出を務め、ミステリードラマというジャンルを連続ドラマに定着させた『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)、『ケイゾク』(TBS系)、『TRICK トリック』(テレビ朝日系)の3作には「事件は解決できても、人の心は救えない」という探偵の限界が描かれており、この問題意識を引き継ぐ形で後のミステリードラマは発展していったと言えるだろう。

 その最前線が『ミステリと言う勿れ』であり、探偵らしくない探偵役の久能整だったのだが、映画ではその問題意識が、より強く現れていた。

 今回、映画化されたのは「広島編」と呼ばれる「狩集家遺産相続問題」を描いた序盤の傑作エピソードだ。

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