パク・ソジュン×IU初共演 再起する人間たちの物語『ドリーム ~狙え、人生逆転ゴール!~』

 上手いアイデアだと思うのは、ソミンが当初ステレオタイプなドキュメンタリー番組を撮ろうとしていた構図を、本作のなかに提示したところだ。下手をすれば、この映画自体が、ホームレスを無理に美化したり、過度にドラマティックに扱うことで、偽善的だったり不自然な内容になりかねないのだ。そこで、本作自体の目線と、もう一つの目線を存在させることで、安易な選択に陥らないような批評性を発生させているのである。

 ホームレスの選手たちが、それぞれに人生の課題を乗り越えられずに停滞しているように、ホンデやソミンも、じつはそれぞれの課題に悩み、いまの人生を好転させたいと考えている。そこで意味を持ってくるのが、ホームレス・ワールドカップなのだ。

 ビッグイシュー・スコットランドの創設者であり、ホームレス・ワールドカップの創始者でもあるメル・ヤング氏は、来日時の講演で、「選手の約8割が出場を通じて人生を変えた。麻薬などの依存を断ったり、仕事や学業に就いたり、住居に住むようになったりしている」と語ったという。(※)

 なぜそのようなことが起こるのかといえば、本作で描かれるように、一つの大きな目標に向かって真剣にものごとに取り組むといったプロセスが、その人の日常に張りを与えるからだろう。そして、自分が必要とされ責任を負うということが、充実した生き方に繋がってくるのだと考えられる。これは、スポーツの話のみならず、社会のなかで多くの人に再起の機会を与え、役割や立場を用意すれば、もっと多くの人が幸せになり、経済全体も活性化していくのではないかという、有益な示唆となっている。

 そして、ホ・ジュンソクが演じる、誠実な事務長が劇中で語るように、決まった住居がある人たちも、いつ何かのきっかけで、住むところを失うような状況になるか分からない。ホームレスと、そうでない人の間には、それほど決定的な違いはないものだ。ユン・ホンデがプロサッカー選手として再起を目指すのと、ホームレスのサッカーチームがプレーを通して人生を変えるきっかけをつかむことは、根本的に同じことなのだ。

 だからこそ、人はさまざまな境遇の人たちと同じ目線に立って、人間同士としての連帯を持つことが必要なのではないか。近年の日本でも、景気が悪くなっていく過程で、就労の困難な人々や高齢者、ハンデキャップのある人などが社会保障や支援を受けることに対し、厳しい見方をする声が、一般市民だけではなく政治家や公務員などからも増えてきているように感じられる。だが、一度足を踏み外したらセーフティーネットが用意されていない社会、一度落ちてしまったら再起が不可能な社会は、まだ落ちていない人にとっても、不安この上ないものなのではないか。

 本作が描くのは、社会をそのような殺伐としたものにするのでなく、ホームレス・ワールドカップの理念のように、多くの人が誇りを持って生きられ、何度でも挑戦することができる環境にしていこうという提案だと考えられる。ラストシーンにおけるユン・ホンデ選手の再起の飛翔は、その象徴として表現されているのである。

参照

※ https://www.alterna.co.jp/16874/

■配信情報
『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』
Netflixにて配信中

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