坂元裕二の“ライブ感”はしばらくお預け? Netflixとの5年契約がもたらすものを考える

坂元裕二のNetflix5年契約を考える

 武正晴が総監督を務めた『全裸監督』や藤井道人が監督した『新聞記者』など、これまでの国内Netflixドラマは映画監督が主導となって作るドラマが多かった。それらの作品の多くは原作・原案があり、脚本も海外ドラマを参照にした複数の作家による執筆体制をとってきた。つまり良くも悪くも日本のテレビドラマとは違う制作方法が模索されてきたと言える。

 しかし、2023年の6月に入り、『コード・ブルー』(フジテレビ系)シリーズで知られる元フジテレビ・プロデューサーの増本淳が企画・脚本・プロデュースを手がけた『THE DAYS』、宮藤官九郎と大石静が共同脚本で執筆したTBS制作の『離婚しようよ』といった、日本のテレビドラマで活躍しているトップクリエイターの手がけたオリジナルドラマが次々と配信されている。坂元の『クレイジークルーズ』も『大豆田とわ子と三人の元夫』で演出を務めた瀧悠輔が監督を務めるため、テレビドラマ寄りの座組みだと言えるだろう。

 一人の脚本家が全話のオリジナル作品を書く機会が多い日本のテレビドラマは、山田太一や向田邦子といった作家性の強い脚本家を多数輩出してきた。近年は原作ものが増えて複数の脚本家が執筆する機会が増えているが、岡田惠和、三谷幸喜、野木亜紀子といった作家性の強い脚本家がオリジナルドラマを一人で執筆するケースはまだまだ多い。

 坂元裕二はそんな日本のテレビドラマの持つ自由な環境で成長してきた脚本家であり、彼がカンヌで脚本賞を受賞したことは間違いなく日本のテレビドラマの一つの達成だと言える。

 そして坂元裕二ほど、日本のテレビドラマの特殊性を自作の武器としてきた脚本家は、他にはいない。

 坂元が書くテレビドラマの面白さは、その執筆手法にある。坂元は各登場人物の履歴書を精密に作った後、プロットを作らず、はじめから順番に結末を決めずに書き進めていく。そして、放送されたドラマを観て役者の芝居や視聴者の反響から感じ取ったことを作品内にフィードバックしていく。

 つまり、連続ドラマのライブ感こそが坂元のドラマを独自のものとしてきたのだが、基本的に全話一括納品が求められるであろうNetflixでは、この武器を活かせない。

 そのため、Netflixの坂元作品は『花束みたいな恋をした』や『怪物』のような映画に近い作品となるのではないかと思う。それはそれで楽しみだが、日本の連ドラが培ってきたライブ感をNetflixが切り捨てるのなら、逆に地上波のテレビドラマの勝機はそこにあるのかもしれない。

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