『らんまん』呪いを祝いに変えた竹雄の愛 万太郎と寿恵子から学ぶパートナーとの歩み方

『らんまん』呪いを祝いに変えた竹雄の愛

 綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)の距離が近づいた、『らんまん』(NHK総合)第62話。綾と竹雄は組合を作るために佐川の酒蔵を巡って頭を下げるも、「峰屋」がこれまで他の酒蔵より優遇されていた歴史や、当主が“女”であることから、協力どころか冷たい言葉を浴びせられる。

 それに対して「アホばっかじゃった」と怒りをあらわにする竹雄に対し、綾はそれでもそれが本音だと、深く受け止めてしまう。子供の頃から酒蔵の近くで育った彼女にとって、女でいることは呪いだった。その呪いの言葉を再び浴びて、“自分こそが呪い”であると言いながら力を落とす。無表情で竹雄に「夫婦になろう」と言った綾。自分ではなく、結婚して竹雄が当主になればこんなことにならなくてすむ。そんな意図がうかがえるプロポーズの言葉は、竹雄の気持ちを傷つけた。

「いやじゃき。そりゃ、真から欲しい言葉じゃ。ほしゅうてほしゅうてたまらんけど、今の綾様からは、ほしゅうない」

 キッパリと綾の告白を断ったのは、真心からのものではなかったことが前提だが、もし結婚したとしても綾の代わりに当主になることは嫌だからだ。竹雄は、「女だから」とか関係なく「酒造りが好きで」酒蔵の当主になった綾が、好きだから。周りを気にせず、“自分の好きを追求し、そんな自分に誇りを持つ”槙野姉弟が大好きだからだ。だから、「峰の月」以外の酒を作りたいなら隠し蔵で作ればいい、あんな他所なんか出し抜けばいいとさえも言う。あえて、弱気な綾に「誇りじゃ生き延びていけんき」と揺さぶりをかけて、彼女自身から “誇り”を引き出す駆け引きだった。

「先祖代々、真っ当に守られてきた、あったこうて甘い、あの暗闇に心奪われたがじゃ」

 綾は竹雄に反論しながら、失った自信と誇りを再確認することになる。自分を「行き遅れ」と言って「峰屋」ごと買おうとした男、女がいたら蔵の神が怒ると言った男。彼らによって奪われていた気力と表情を、「(「峰屋」が)滅ぶがやったら、滅んだらいい」と言う竹雄を睨む様子で取り戻しているのがわかる。そして竹雄は呪いの言葉を、祝いの言葉に変えた。

「そうじゃ、飲んだくれの女神じゃ。わしはそういう女神様に、欲しがられたいがじゃ」

 当主とか、女とか、もうそういうのじゃない。好きなものを好きでいる綾を、優しい表情で全肯定する竹雄。そんな彼に、「めんどくさいき」と言いながらも手を重ね、キスをする。今後夫婦として暮らしていく男女について考える上で、竹雄の提示した深い愛は“正解”すぎて、ひたすら心を打たれる回だった。

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