ライブアイドル歴10年・ネ兎ねうが語る『【推しの子】』のリアル 「嘘も“優しさ”かな」
2023年春アニメとして放送された『【推しの子】』が空前の大ヒットを記録。美麗な作画とキャラクターの魅力に加え、芸能界の闇と光の“リアル”を生々しく描いていることがSNSを中心に大きな話題を呼んだ要因の1つだ。YOASOBIの主題歌「アイドル」にもあるように、本作ではトップアイドル「アイ」に起こった悲劇から物語が始まり、ゼロからアイドルを目指す過程も描かれる。
視聴者の我々は『【推しの子】』で描かれる“芸能界の裏側”をエンタメとして楽しんでいるに過ぎないが、実際のアイドルは本作をどのように観て、何を感じているのだろうか。
そこでリアルサウンド映画部は、アイドルグループ・キングサリのネ兎ねうにインタビュー。ライブアイドルとして活動10年目を迎えるネ兎ねうに、『【推しの子】』が描く世界のリアルさから、自身のアイドル観までを語ってもらった。(編集部)【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】
アイドルにとって“売れる”の定義とは?
ーーねうさんの自己紹介をお願いします。
ネ兎ねう(以下、ねう):アイドルグループ「キングサリ」で活動しています、ネ兎ねうです! 担当は“おまじない”、色は紫です。
ーーねうさんは今年でキャリア10周年目となりますね。
ねう:そうなんですよね。自分でもそんなに長くやるつもりはなかったんですけど(笑)。
ーーそんなねうさんにTVアニメ『【推しの子】』について語っていただきます。ねうさん自身は『【推しの子】』にどんな面白さを感じていますか?
ねう:最初の方でアイちゃんが死んじゃったりとか、そこから父親探しが始まったりとかで、サスペンス要素で一気に引き込まれました。私、あんまり流行りものは観ないタイプなんですけど、「話題になってるし観てみようかな」ぐらいの感じで観てみたらハマりました。そもそも転生ものも、現実味のない感じがあるからそんなに観てなくて。でも今回の転生は、「“推しの子ども”になりたい」がキーワードじゃないですか。それって、実は私のファンの中にも言ってる人がいて「あ、これがそういうことだ」と思ったんです。いろいろ想像しながら、アイドル目線でも観られるところが面白いですよね。
ーー『【推しの子】』といえば、アイドルたちのステージでは語られない部分も描かれる「お仕事アニメ」的な面白さもあります。実際のアイドルは「ステージでのライブ」以外でどういうお仕事をされているのですか?
ねう:ライブのない日は新曲の振り入れだったり、レコーディングだったり……。あとは、こういう取材や撮影。ツアーや大きいライブの前には関わってくれる大人の人と集まって、セットリストを決めたりミーティングをやったりもしますね。
ねう:あります! 私の場合、ミーティングで、その場で急に意見を出すことが苦手で……。頭の中がこんがらがっちゃうんですよね。そういうときに、言いたいことが伝わらなくて、悔しさで泣いちゃったり。良いものを作りたいからこそ、もっと準備時間が欲しいときはありますね。
ーーこだわりがあるからこその、本気のぶつかり合いですね。外から見ていて「ちょっとこのグループ仲悪いぞ」みたいなこともあったりするのでしょうか?
ねう:自分がオタクをやってたときもそうだったんですけど、仲悪そうなグループって何となくわかっちゃいますよね(笑)。ファン同士でも「やっぱりここは仲よくないのかな」みたいな話ってあったりするじゃないですか。実際、自分がアイドルになってみて「あ、ここは仲悪いんだ」とか思う瞬間もあったりして。でも私は、今のグループも前のグループも仲がいいので恵まれてるなと思います。
ーーねうさんのお人柄によるものだと思います。お仕事の裏側の側面で言えば、通常のサラリーマンだといわゆる固定給でお金がもらえます。アイドルのお給料のシステムはどうなっているのでしょうか?
ねう:事務所によってバラバラだとは思いますが、基本的にはチェキを撮ってその何割かをもらえる“チェキバック”か固定給ですね。たまに固定がいくらで、プラスチェキバックのところもあるけど……。だからチェキバックは、サラリーマンのインセンティブと同じ感覚ですかね。頑張った分だけ。
ーー配信の投げ銭はどうでしょう?
ねう:それも、もらえるところともらえないところがあります。全部もらえるグループもあるし、2割ぐらいしかもらえないってグループもあるかな。本当にアイドルの給料って事務所がどれだけメンバーに還元してくれるかにかかっていると思います。
ーーそれこそ企業によってお給料が違うのと一緒ですよね。「このグループはお給料少ないから転職しよう」とか。
ねう:本当にそうです。「いいとこ入ったね!」みたいな(笑)。
ーーねうさんは今年でアイドルとしてはキャリア10周年になりますが、今までのお仕事の中で「アイドル業界の闇」を感じた部分はありましたか?
ねう:闇……あるかな? そんなにないし、あっても言えない。
ーーそれでは精神的なつらさの闇の方はどうですか?
ねう:それは、あるかもしれないです。ファンとアイドルの間で、メンタルが削れるようなことがあったりとかもあるし。他のグループさんの話聞いてると、運営の人に「そこまで言われなきゃいけないのかな?」みたいなことを言われてたりとか。でも、どんな職業でもそういうことはあると思うんです。とはいえアイドルって若い子が多いから、大人にガッてこられたら、この先大丈夫かなって心配になっちゃう。
ーーさすが目線がお姉さんですね。
ねう:アイドル界のお姉さんとして、子供たちの心配はしていきたいです。
ーーねうさんにとってのアイドルが“売れる”の定義はなんですか?
ねう:一般の人、アイドルファンじゃない人にも名前を知ってもらえたら、“売れてる”っていうのかな。どこまでいったら、という明確な定義はないかもしれない。でもやっぱりライブアイドルって言ったら、売れてるとは言っても限界があるのかな。テレビに出たり、雑誌に出たり、大きい会場でライブをしたりして、いろんな人に知ってもらいたいですね。
自分の中にいる“ねうちゃん”と向き合い続けて
ーー『【推しの子】』といえばキャラクターの魅力もあると思います。ねうさんの“推しメン”はいますか?
ねう:まだちゃんと定まってはいないんですけど、「応援したいな」って意味では、黒川あかねちゃん。アイちゃんはもちろん好きですが、(アイは)みんな当たり前に好きというか。でも新しいキャラクターが出てくると、また気になる子が変わっちゃうかもしれないから。ちょっと今のところは、“推しメン”とは言わないでおきます(笑)。
ーーちなみに、あかねが気になる理由は?
ねう:今のところ私はアニメしか観ていないので、もしかすると漫画はもう少し進んでいるかもしれないのですが……。恋愛リアリティショーの回のところで、素でいくと目立つことができないから、どうしたらいいのかを自分なりに勉強して考えて悩むけれど、なかなかうまくできないっていうところに共感しちゃう。私もあかねちゃんと一緒で器用ではないタイプなので、重ねて観ちゃうところがあったりして。
ーーご自身のどういうところが不器用だと感じますか?
ねう:今日のインタビューもそうですけど、緊張しやすいタイプ。不安が大きくて、事前に準備をしないとできないんです。アイドルを長く続けていると準備しなくても上手くやり取りができる子も見かけますが、私はそういうタイプじゃないから。羨ましいと思う反面「学ばなきゃ」って思うことが日々あって。もちろん、その子たちも裏で努力してるのかもしれない。器用になりたいですね。
ーーねうさんでも、他のアイドルさんを羨ましいと思うこともあるんですね。
ねう:えー! 思いますよ(笑)。私は結構嫉妬しちゃうタイプだから。ネガティブな感情が原動力になって、ここまで前向きにやってこれた部分もあるとは思っています。ただ、「あまりそういうネガティブな感情ばかり持っているのもよくないな」って5年目ぐらいで思って。今年はそういう気持ちから離れたいです。
ーー5年目でネガティブな感情に気づいたときは、「これを出さないでいこう」と自分の中で決めたのでしょうか?
ねう:そうですね。最初のころはTwitterで思ったことを言ったりとか、寝れなくて深夜にツイキャスやったりとかもあったけど、やっぱり5年ぐらいやると、もう新人ではないじゃないですか。1、2年目なら、かわいいと思えるかもしれない。でも5年目ともなると「そういうの違くない?」って思っちゃったりして。客観的に見て「それは“ねうちゃん”じゃないかも」と思って、やめるようになったかもしれないです。
ーーねうさんの中にも思ってる“ねうちゃん”がいるということですね。
ねう:います。元からそんなに作ってやっているタイプではないので、素に近い状態でやってはいるんですけど。「ねうちゃん」っていう名前でアイドルになって、そのねうちゃんにお客さんがついてくれたって考えると、だんだんできてきた「ねうちゃん像を崩さないように」っていう想いはあるかもしれません。