『怪物』には“繋がりたい”と思う願いが込められている 坂元裕二が描き続ける孤独な人
本作は、人と人が分かり合えないことの悲劇を描く。本人にとっては何気ない、時に各々の人生観や価値観、あるいはコンプレックスゆえの発言が、人々の間に取り返しのつかない分断を生んでいく。一方で、それでも一瞬、繋がり合ったように思える奇跡を描いた物語でもある。例えば、あれほど反目し合っていた早織と保利が、湊たちのことを思う一心で、互いを支え合いながら、先を急いだ時。また、本編では描かれなかったが、シナリオには描かれていた重要なエピソードの一つとして、終盤、伏見と湊と依里とのやり取りの中で、伏見が彼らを救う一方で、ふとした拍子に彼らに救われる様子を描いた場面がある。本編においてそれが描かれなかったのは、その少し前の場面であるところの、彼らが奏でる「音」に全ての「救い」の意味を込めたからなのだろう。
私たちは孤独だ。どんなに相手のことを分かりたいと思っていても、すれ違い続けるこの世界において、誰とも深く関わらなければ、何も言葉を発しなければ、誰も傷つけずに、傷つかずに生きていけるのかもしれない。ふとした拍子に無自覚な刃で人の心を刺してしまいかねない己の言動の浅はかさを嫌と言うほど知りながら、それでも私たちは、繋がりたいと必死で手を伸ばす。手を伸ばさずにはいられない。その姿を、その願いを、『怪物』は描いたのだと思う。
■公開情報
『怪物』
全国公開中
監督・編集:是枝裕和
脚本:坂元裕二
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
企画・プロデュース:川村元気、山田兼司
音楽:坂本龍一
製作:東宝、ギャガ、フジテレビジョン、AOI Pro.、分福
配給:東宝、ギャガ
©2023「怪物」製作委員会
公式サイト:gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/
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