『らんまん』は良い作品の条件を満たし続ける 伊礼彼方、田中哲司、要潤が見せた“別の顔”

『らんまん』が満たす良い作品の条件

ラスボスになりそうな植物学の権威

 これまでも何度か片鱗はあったが、第11週でその底知れぬ恐ろしさが確定的になったのが東京大学植物学教室の初代教授・田邊彰久。一見、経歴などにはこだわらず、学問に対して熱量がある人間を取り立てているように見せながら、じつは自身の“利”を最優先に考え、それを阻むものは容赦なく切り捨てる冷酷さを宿す。

 この先、万太郎が自分の立場を脅かしたり、彼の行動が利益にならないと判断すれば田邊はアリ一匹を踏み潰すより簡単に万太郎を教室から追い出し、その功績をすべて握りつぶすだろう。彼にとって自分以外の人間はすべて踏み台でしかないからだ。ただ、万太郎も田邊のそんな人となりを見切っており、現時点では学会誌に田邊への賛辞を載せるなど上手く利害を一致させている。

 舞踏練習会での寿恵子や高藤の妻・弥江の言動に動揺したり怒ったりすることもなく、女性たちのあの決意表明から女子教育への必要性を感じ取る田邊のパーソナリティは明らかに凡人と異なる。今後、ふたりが対立することはあるのか。あるとすれば万太郎にとって最大の敵になる可能性が高い。

 ここで冒頭の問いに戻りたい。良いドラマの条件とは何だろう。私は登場人物が物語の中で“生きている”ことがその大きな要因だと考える。高藤は寿恵子を万太郎の元に走らせる単なる当て馬ではなく、この時代の権力者のある種の象徴として存在していたし、徳永はトップに可愛がられる主人公に嫉妬し邪魔をするだけの役回りでなく、日本文学を愛し不器用な面も持つ人物であることが描かれた。田邊のスマートな姿の奥に隠された冷酷さは言わずもがなである。

 第12週「マルバマンネングサ」では万太郎を幼い頃から見守ってきた竹雄の心境に大きな変化が起きそうだ。第11週で大畑印刷や東大植物学教室の皆に受け容れられる万太郎の姿を嬉しそうに、そして少し寂しそうに見つめてきた竹雄が故郷でどんな決断をするのか。やっと互いの気持ちを伝えあった万太郎と寿恵子のこれからとともに登場人物たちが物語の中で“生きている”さまを見守りたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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